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「九雀亭」落語会に寄せて
2020年3月の当日パンフより。
「愛宕山」
落語のハレ部分を堪能できる名作です。
人間臭さがあふれる幇間一八と旦那のやりとり、道中の賑やかさ、望遠鏡で風景が見渡せるような世界観。
あんまり言うとハードルが上がり過ぎますが、物語の展開や口跡の良さだけでなく、仕草から表情など全てが遠足みたいに楽しめます。そうですね、アウトドアの落語です。
私が大学生の頃には、群を抜いて古今亭志ん朝でした。
それは父の志ん生ではなく、そのライバル桂文楽の系譜ではあったのでしょうが、弾けるような若い色気とリズムでは志ん朝は文楽を凌駕していたと思います。
そのリアリズムは、粋を孕んだ演劇的世界でもありました。
後年には上方の米朝や小文枝のはめもの入り「愛宕山」にも圧倒されました。
相当の技量を伴うので、学生落語ではプロを目指したがるような人しか挑戦しません。
私がいた明大落研の先輩で、この噺で学園祭の客席を沸かせていたのが竹内照雄さん、現在の立川志の輔さんです。
「代書屋」
こんな職業がなくなっているのに、落語だけが残っているのには驚く価値ありです。
主人公のお馬鹿キャラは長生きですね。パソコンばかり使っているうちに、漢字をどんどん忘れてしまう私は彼を笑えるのでしょうか?“一行抹消”のフレーズも耳に残ります。
「いもりの黒焼き」
落語の定番・質問だらけの根問い物の色事版だそうです。
意外に「やかん」を得意ネタにしていた談志のように、演者の主観とセンスが光る類の噺だと思います。
「だくだく」
今回出演する私・小宮孝泰のネタ下し演目です。昨年のこの欄で口跡の良さが勝負と書きましたが、違いました。
妄想癖の強い登場人物による落語ファンタジーです。落語らしい落語のような気がしてきています。
口跡よりも、味気ない長屋の一部屋に花が咲いたように想像させる表現力が肝心な噺です。私も自分のハードルを少し上げてみました。
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九雀亭
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