2005年エジンバラ演劇祭参加日記

2005年8月4日(木)
KLMオランダ航空の成田発10:15分発にてエジンバラへ出発。
日本からは私と制作・記録係の嫁さん、そして舞台監督の武川さんが同行。それにしても荷物が重過ぎた。重量オーバーの為に追加料金を取られる。衣装と小道具に和服が重いのだろうが仕方がない。
11時間くらい乗って中継地のアムステルダム着。
さらにアムステルダムで4時間も待たされる。

SushiKLM

これはアムステルダム空港内の回転寿司。とにかくだだっ広い空港には色んなお店があるが、寿司も回ってるんです


予定より1時間遅れの18日夜9時半にエジンバラ空港に到着。出口辺りに早速演劇祭のチラシを発見。気持ちが盛り上がる。
バスで市内へ移動。
予定の宿舎は名前からホテル形式を想像していたのだが、集団アパートみたいな部屋。我々には上下2階式のロフトの部屋が割り当てられていた。1階部分に小さいながらもキッチンとダイニング兼リビングルーム。ツインの1部屋、バスルーム。2階には同じようなツインの部屋が2部屋。荷物の重過ぎる私ら夫婦が1階をもらう。
ここでロンドンから参加の元文学座舞台部のM道生(以下M道さんに略す)さんと現在日本の大学を休学して演劇留学中のSめぐみさんと初対面。

早速リビングでミーティングと親睦の自己紹介を兼ねた飲み会。


8月5日(金)
時差ぼけなのか朝5時くらいに目が覚める。6時くらいにリビングに出てみたらM道さんと武川さんがゾロゾロ起きてきた。結局年寄りから順に目覚めるということか?
朝食等の買出しに出かけ、自炊生活が始まる。今回は基本的に経費節約である。

午前11時。出演劇場のThe Citrus Clubを捜しに街を探索。見つけた場所はその名の通り、踊って酒を飲むClubである。
でも黒一色の室内は「JAIL TALK」向きでもある。劇場スタッフのお薦めとは別に、本来なら客席となる一段高くなった場所を舞台に設定し、ダンスのフロアを客席にする。鉄のバーで仕切られた舞台は留置場の雰囲気がある。下手の階段も舞台の演技エリアとしてとして使えるだろう。
約束していた簡易式の机や椅子がないのに当惑したが、武川さんやM道さんらがすぐに代用品を見つけた。照明の確認も隙がない。2人とも心強い味方である。
citrus1

劇場表の様子
少し寂しい所にあるので、自分達でチラシや寄席文字看板を貼って盛り上げました

citrus2

Club の中の様子
ねえ真っ黒でしょう

ここでM道さんの紹介:元文学座の演出部の方。
奥様がイギリス人なので13年前に渡英。今回は英国在住俳優の楠原さんの紹介で知り合う。優しい眼とは裏腹に、鋭い演劇批評の眼も持っていらっしゃる。それとパソコン関係に精通しテクニカルサポートもやっている。料理も上手。本当に強い見方だった。

劇場下見の後は、手作りポスターやアンケートのコピーを取りに、New Town へ繰り出す。去年泊まった懐かしい街並みだ。

全員で駅前にある演劇祭(以下 Fringe Festival)のハーフプライスチケット売り場からポスター貼りを始める。
糊を貼ったり、皆さん手際が良い。

一端作業終了。分かり易そうなコメディミュージカル「十二夜」のマチネを半額で観る。現代音楽を取り入れているが、シェイクスピア作品として有名なので筋は解る。全出演者を6人で演じる音楽劇。軽いタッチのお手軽なショウだった。でも中高年のお客様でいっぱい。イギリスではやはりシェイクスピアは強いらしい。

4時に今回の世話役であり、私達の参加を仕切ってくれたシャクティさんと劇場で再会、打ち合せ。彼女はインド系ハーフの日本人で、自身も妖艶なダンスを各国の演劇祭で踊るダンサーである。エジンバラなどに参加する日本の小団体は大抵の場合は彼女に頼ることになっている。

その後は部屋に戻り、「JAIL TALK」の台詞合わせ。
夕食は中華のTake Awayを取る。
午後11時就寝。


8月6日(土)
やはり早朝に目覚める。男性陣は昨日のような順で起床。
M道さんと武川さんが技術ミーティングを始めた。残念ながら私は門外漢。

朝10時半、次のフラットへ移動。今日から1週間は学生寮に泊まるのである。劇場の側に、その寮はあった。
完全な個室がついた5人単位のフラット。リビングもかなり広い。使い易そうだ。
ただ台所用品に少々不備があったり、2つのトイレのうち1個が修理中だったり問題もある。まあ贅沢は言えない。
今回の座長の私は日当たりの良い部屋を頂く。シングルベッドに立派な学習机が付き、洗面所やクローゼットもある。電話回線も繋げることは可能なので、パソコンも使える。ただしただの電話回線なので読み込み速度はかなり遅いらしい。後でM道さんやSめぐみさんが話していた。
5人それぞれ部屋を決め、自分の城を築き始める。

12時に劇場で簡単なリハーサル。何しろ割り当て時間が2時間しかない。本番通りの舞台稽古は無理なので、いわゆる場当たりしか出来ない。その明かり合せも機材の不充分さで難航した。それでも劇場スタッフの2人は親切そうなのが救いだった。僕らの次にやる韓国のパフォーマンス集団とは劇場の使い方がまるで違うようだったが、我々の言い分を聞いてくれる耳は持っていた。
今回記録係の嫁さんは、まだ慣れないDVDのカメラ操作の練習に余念がない。私もカメラ位置などを助言する。今日は試しに少しカメラを回してみた。
E05P

ただ今リハーサル中
衣装のスーツを着ると本当に真っ暗になるので、上着を脱いで写真を撮ってみました

夕方(といっても夏のエジンバラは夜9時過ぎまで明るい)は、Old Town の目抜き通りHigh Streetでチラシ配りとポスター貼り。ここがこの祭りの中心場所だ。それだけにパフォーマーの数も凄い。人だかりの衆目を集める大道芸から、学生演劇ぽいやつやら、人形振りのマイムやら、ただの奇天烈な格好の集団やら個人やら、もうワンサカいる。
少々気後れしそうになるがM道さんとSめぐみさんのパワーが力強い。
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全身銀色の妖精の人形振り。投げ銭を入れると彼女は動き出す。ただし静止状態のときでも微妙に動いていた。そんなにマイムは上手じゃなかった

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変わった衣装の集団。こういうのがあちこちで屯している


ここでSめぐみさんの紹介:彼女は日本の大学3年の女子大生。演劇製作の仕事を志してイギリスに演劇留学中。制作志望なのに今はドラマスクールに通って演技の勉強もしている。勿論芝居のことを深く知りたいからだろうが、その方が活きた英語を早く話せるようになるとの判断だったらしい。事実彼女の英語は半年の滞在で充分効果を発揮していた。現在は日本の大学を休学している。
今回は私のHPの掲示板に書き込みをしてきたのが縁で手伝ってもらうことになった。何がきっかけになるか本当に分からない。とにかくフットワークが軽くて、自分から率先して仕事を見つけてくれるので本当に助かった。相当見込みがある人材だと思う。

7時からリビングルームでスタッフ4人を前にして立ち稽古。視線が厳しい!集中できずに苦戦するが断行。松岡さんから今から直せるアクセントなど諸注意あり。果たして明日の初日は如何に?!

Sめぐみさんの発案でパスタで夕食。調理器具が充分ではないので、せっかく茹でたパスタも油断すると時間が経って乾いた固まりになってしまう。皆でワーワーキャーキャー言いながら調理と食事。それも良しか!


8月7日(日)初日だぞ!
8時起床。
美味しい自炊の朝食後に、台詞の自主練。スタッフが早めに出発した後も一人残って体操をする。とにかく体が硬くなっていた。いかん!せめて心は柔らかく!

12時半、泣いても笑っても初日は始まる。
観客動員が私の予想を下回ってしまったが落ち込んでいる場合ではない。楽屋のドアを開けてステージへ。前説に侍ネタを入れてみたりした。クスッとはくるが総じて静かだ。言い間違えも多かった。
思えば初日の緊張があったのだろう。上演時間も1時間10分を超えてしまった。本来は1時間8分くらいのはずだった。受けない分、芝居を押してしまう傾向にあるのだ。”私は頑張ってますよ”というアピールが演技に力みと長さを与えてしまう。そういう時こそ軽い芝居を心がけなければならないのに。言うは易し、行うは難しだ。
ただその日の観客アンケートによれば、実は芝居をじっくり観ていたのだということも後で分かった。”笑い”だけが反応ではない。頭では分かっているが・・・

エジンバラの日本語学校の先生、Tもと子さんが芝居を観に来てくれた。彼女ともHPの掲示板に書き込みで知り合った。10日の夜にはその日本語学校で「接見」日本語版や落語のワークショップをやることになっている。終演後に我らが宿舎で、その日のことについて打ち合せ。

今日はエジンバラ・フェスティバル総合の初日でもあり、車も人も交通を遮断されて、街は長いパレードの列と見物客で賑わっていた。チラシ配りの矢先にそれに出くわした。
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鼓笛隊やら、烏合の衆やら、ぞろぞろと30分ぐらい通過して行った

夕食は私のリクエストのポークステーキ。豚肉に醤油が美味い!もちろん醤油はどこでも売っています。


8月8日(月)2日目
実は今日まで 2for1。2人で1人分の料金。半額サービス。
日本人の学生や、イギリス人の家族が来ていた。少し遅れて若い記者が来ていたらしい。劇評を書いてもらえれば幸運だ。
ただし今回の集客が厳しいものになることは覚悟した。
それでもGO!
芝居は昨日よりもあわてなかった。上演時間は1時間8分。劇中で「雨の慕情」を私がハミングする場面(イギリス用に説明的に補足した部分)や、幕切れのフェイントの短い場面をカットしたりもしたので昨日より5分も短くなった。見えない塩川さんとの会話の”間”も詰めた。それにしても5分の差は大きい(^0^)
昨日忘れていた”階段を使う芝居”もこなした。リハーサルをまともに出来なかったので、現場の階段を使うのをすっかり忘れていたのだ。やはり緊張していたのだろう。初めてのエジンバラでは無理もないか。
とにかく今日の1場と2場はギリギリ合格点。3、4場と後半で失速してしまったのが惜しい。

芝居を終えて、カラーコピーで作った即製のポスターを街に貼りに出かける。今回はほとんど何でも手作り、自分の手と足で行動である。ちなみにポスターのデザインや宣伝用の団扇など色んなものを嫁さんが用意してくれた。多謝!
私以外の別班はニール・サイモンの「おかしな2人」を上演している劇場にチラシ配りに出かけた。少しでも「JAIL TALK」に似たような人情劇やウェルメイドプレイに集まる客に的を絞った方が効果的なのではなかろうかという作戦。果たして如何に?
もちろん後からHigh Streetでもチラシ配り。これは毎日の日課である。今回主催者側に作ってもらったPost Card 大のチラシも3000枚ある。これを5人で1週間のうちに配らなければ!
本来ならば地元の知人などの助けを借りて上演1週間以上前から先に配ってもらっておくべきだった。しかし出来なかったのが実情。今後の課題だ。

日本食の店「盆栽」の屋外カフェにて、みんなでお茶する。辺りの山の切り立った山肌や峰を登ったり散策している観光客を眺めながら、久しぶりにゆったりした気分になった。こんな街の表情もエジンバラである。
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皆で暫し休憩の図
この明るさで夜7時過ぎである


夕食は、去年も立ち寄ったイタリアンのレストラン。
その時の思い出話などをウェイターのおじさんに話したら、芝居のポスターも貼ってもらえることになった。

フラットに帰ってから武川さんにマッサージをしてもらう。あまりの気持ちよさに途中で寝てしまった。しかし何と優しいスタッフだろう。


8月9日(火)3日目
7時に起床。普段の私では考えられない早起きの生活だ。昨日辺りから各自好きな時間に好きなように朝食を取り始める。

しかし平日の昼間の集客は不安だ。
今日はベテランの演劇記者や女優さんらが観に来ていた。いわゆる目の肥えた客だ。それに今日も日本人が数人。やはり日本の芝居には日本人が来るのだろうか?劇場スタッフのDavid も客席に坐っている。ちょっと緊張だ。
開場間際に飛び込み客が数人入ってきた。ラッキー!
David が前説の侍ネタから笑ってくれた。嬉しい。彼は劇場付きの若い方の照明・音響スタッフでかなりの巨漢。とても優しそうな人物である。

芝居の出来は今日が平均的に一番良かった!
ようやく落ち着いてきたし、ミスが少なくなってきた。

終演後に前述の老人記者が、しきりに私に質問してきた。”誰が書いた作品なのか?”とか、”演出家やプロデューサはここにいるのか?”とか、”登場人物の詳しい名前は”等々である。
それぞれの質問に、”作家の水谷龍二さんが書きました”。”演出家もプロデューサーも今回は同行していないので、全部自分自身で仕切りました”。”檜常太郎と塩川秀夫です”と返事をする。私の答えが予想外だったらしく、時々ビックリしたような顔をしていたが、”とてもChuckle(くすくす笑う)な芝居だ”と誉めてくれた。とにかく私の英語もこういう日本的な”間”の芝居も受け入れてもらえたようである。やれやれ!

今日の昼食には、例の日本語学校のTもと子さんから差し入れに頂いた美味しいおこわを頬張る。エジンバラまで来て日本の懐かしい味に感激!
ご飯を食べたら、明日の日本語学校で使う寄席囃子や芝居ののCD、生徒さんに配るアンケート用紙などの確認。アンケートは今後の貴重な資料である。

私と嫁さん、Sめぐみさんの3人は着物に着替えてHigh Streetへ出かける。やはり和服姿は注目を集める。チラシもどんどんはけた。

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着物と袴でチラシ配り
観光客も多いが、配っている奴も多いので何か目立たなくては

今夜は観劇ツアー
去年この演劇祭でダブル・アクト(無理に日本語的に訳すと2人組みの漫才のようなもの)で賞を取った日本人のマイムグループが大評判らしい。名前は”があまるちょば”。チケットをやっと予約できた。
今回のパフォーマンスのタイトルは「東京オバカさん」。確かに前半の大道芸的な客いじりで満杯の客をガッチリ掴む。とにかくイギリスの客はノリが良いのだ。見た目やテンションはちょっと「電撃ネットワーク」を思わせる。
一転して、ストーリを重視したパントマイムの物語の2部構成。今回は「ロッキー」を題材にしたボクサーの恋と試合の物語。一人が主役の男を演じ、もう一人が恋人や様々な対戦相手を全て演じる。このコンビネーションが実に良い。私も大笑いした。
彼らには言葉の壁の障害が全くない。こういう場合、マイムは強い。日本では逆に壁になってしまうのが現状だ。文化の土壌が違うのだろうか?
とにかく日本では無名でも、海外では立派に活躍している人たちがいること実感した。
あまりにお薦めのグループなので下記に彼らのHPをリンクをしておきます。

があまるちょばhttp://www.gamarjobat.com/


8月10日(水)
街で配ったチラシを見たというイギリス人女性が観に来てくれた。初めてチラシの効果が出たのが嬉しかった。
それと、今回の私の情報記事が先週イギリス在住日本人向けの週間新聞「News Digest」に載った。それを見たという日本人カップルも来てくれた。メールで取材してくれた記者の方にも感謝である。

今日の出来は前半は良かったのだが、やはり後半で言い間違いやらで失速する。前半が上手くいけばいったなりに、駄目であればまたそれだけ、その出来を意識して硬くなってしまうのだと思う。
”間違ったっていいや”という開き直りと明るさが必要であろう。
終演後に昨日観に来てくれた日本人学生(実は俳優志望者だった)と前述の日本人カップルと、偶然にも初台が共通話題になり盛り上がる。こんな所で初台が話題になるとは?!

新聞評出る。★★
初日は硬かったから、今日辺りの出来で観てもらえれば★一つは増えたのでは?残念ながら仕方ない。

以下にその新聞評と訳を

〇新聞評・スコッツ, スコットランドの新聞の評

75分間、「Jail Talk」はまさに服役させられている感じだった。被疑者に対応する一人の弁護士、小宮孝泰は説得力のある弁護で問題を解決しようとするが、被疑者の秘密は結末を聞く必要も無いほど自明の事である。
ジェイ・リチャードソン

※下記は原文
Theatre
JAIL TALK ★★
The Garage, Citlus Club (Venue 81)
AT 75 minutes, JAIL TALK really feels like doing time. In this one-lawyer address to a client, Takayasu Komoiya is a convincing advocate with crosses to bear. But the accused's secret is nothing you haven't heard a hundred times before.

JAY RICHARDSON
until 13 August. Today 12:30pm


本日は6時25分よりエジンバラ大学の日本語学科で日本語版「接見」と落語のワークショップの公演。
これは前述のTもと子さんの紹介である。
会場は全く普通の学校の教室なので特別な設備は勿論ないのだが、こういう条件には慣れてきている。武川さんがCDラジカセで音響、照明はM道さんが教室の壁のスウィッチをON/OFFしてくれた。外がまだ明るいので、カーテンを閉めて暗転の出来上がりである。
まさに”芸人に下手も上手もなかりけり、行く先々の水に合わねば”である。ちょっと違うか(^0^)
しかし会場の教室は50人以上のお客さんで満席である。正直に言うと、今回の上演で一番の観客動員である。
日本人の方も多く、今日は細かい所までよく受ける。八代亜紀の「雨の慕情」もバッチリはまった。

着物に着替えて、英語落語「厩火事」。英題は[A fire in the stable]。去年ロンドンで随分やった噺である。でも今までイギリスで演じた中で、今日が一番受けた。やはり日本語学科だからであろう。
落語を終えて、蕎麦の食べ方と落語のオチの実演のワークショップを銀髪の初老の男性にやってもらう。本人も見ている生徒も楽しそうだった。

最後に狂言の小舞い「若松」を謡い舞う。
何人かのイギリス人の女性がジッと見ている視線を感じた。日本の古典的な踊りや扇子の使い方に強い興味があるのだろう。”笑い”はないのに、とても楽しそうだった。
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これが我らが総メンバー
学校の玄関で記念写真



8月11日(木)4日目
今日は今回のコーディネーターのシャクティさん夫妻と、そのスタッフが観に来てくれた。チラシ(英語ではFlier)を見たというお客さんもボチボチ。

前説からよく受ける。
1場は良かった。だが徐々に失速。うーん。こらえ性がない。
特に4場の最後"Carry on with your love" を "Carry on with your denial"と、言い間違えてしまう。自分としては大きなミスだったので、すっかり動揺してしまう。

ちなみに今日は劇用のハンカチやババシャツを替えてみた。それが災いしたのかな?

今日も観劇日
Fringe の Dan Clark というパフォーマーを観劇。これはFringe用の”ぴあ”みたいな情報誌の宣伝文句に釣られて観に行った。
しかしパンフの宣伝広告の印象とは違って、ほとんどスタンダップコメディだった。もっとハートウォーミングな物語を想像していただけにちょっと残念。

ここで今日行った劇場を説明しておく。大学のキャンパスを利用した仮設劇場。各教室ではそこかしこで様々な上演がある。日本の学園祭の規模を大きくしたものを連想してもらいたい。毎日10箇所くらいの教室で、1日それぞれ8本くらいの公演やライブが行われている。つまりこの大学キャンパス内だけでも、1日に100本近くの出し物がえんじられているのだ。
この時期、エジンバラの街でどれだけの数のパフォーマンスが繰り広げられているかと思うと驚くばかりである。玉石混合ではあるが、その参加数たるやエジンバラ演劇祭は半端じゃない。


2005年8月12日(金)5日目
何と、今日はお客さんが全員イギリス人だった。こんなことに驚いてもしょうがないが、これで理解してもらえれば本物である。

前説、1場共によく受ける。最初の場面でくしゃみをしてガラスを拭く芝居も受けた。これはイギリスでは初めてだったかもしれない。
結局、この日の観客のお陰で最後まで軽いのりで出来た。自分でもこの軽さは、一番の出来だと思う。喜劇は、こういう風にいきたいものだ。

実は今日も多少の言い間違いはあったのだが、あまり気にならなかった。母国語ではない言語で上演しているのだから完璧は無理である。良い居直りも必要だ。

午後はスタッフと皆でエジンバラ観光。何しろ忙しくて、これまでどこも名所旧跡を見学していない。たまには観光日も良い。
当然のことながら、まずはエジンバラ城を見学。皆で写真やビデオを撮りまくる。この時ばかりは日本人観光客の代表のようだった。

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断崖にそびえ立つエジンバラ城
まさしく天然の要塞の上に立つお城である

賑やかなHigh Streetにも繰り出して、ウィスキー工房を今年も見学&お土産のお買い物。さらにダイアナ王妃お御用達だったというタータンチェックの生地の洋品店を覗く。ここも去年嫁さんが気に入った店だ。今年も引き続き、薄い青と紫のショールとマフラーを買って喜んでいる。
M道さんやSめぐみさんは、坂下のクラフトワーク市場を散策していた。この時期は演劇だけではなく、あらゆる文化の催し物があるのがエジンバラ・フェスティバルの特徴である。

夜7時から宿舎で今回の打ち上げ。明日は終演後すぐに移動しなければならないので前日打ち上げである。日本語学校のTもと子さんや、今回「JAIL TALK」を観てくれた日本人青年も参加である。
何しろ自炊生活なので手作りのご馳走でいっぱいだった。中でも私も手伝った山盛りの肉じゃがと、Tもと子さんの豆サラダが目立った。
外はまだ明るいのだが、話しはどんどん盛り上がる。
M道さんとSめぐみさんから、私と嫁さんにクラフトワークのプレゼントがある。何だかジーンときた。
明日はいよいよエジンバラを離れるのである。




8月13日(土)早くも千秋楽。
最終日。街で配ったチラシやフェスティバルのFree Magagine を見て来てくれた人がやっと多くなった。Sめぐみさんのメール友達も来てくれた。本当にみんなの結集した力のお陰であると思う。
今日で終るのが勿体無い。

本日の上演時間は1時間7分。今回の、というよりこれまで上演した全ての英語版の最短記録だ。総合的にも良くまとまった出来だった。
繰り言だが、初日にこれくらいの結果が出れば、新聞にも★★★の劇評が出たのではないかと思うと口惜しい。

さすがに今日は最後の挨拶で込み上げるものがあった。
Thank you for coming. Today is my last day. See you next year!
そう言い終わって舞台を後にする。
終演後に劇場スタッフやシャクティさんのスタッフ達と挨拶したり、お別れビデオを撮ったり暫し名残を惜しむ。

まとめた荷物を宿舎に取りに戻る。チェックアウトは午前中に済ませてあった。
日本からの3人組はTaxiで駅へ。M道生さんとは宿舎で、Sめぐみさんは一緒にTaxiに乗りHigh Streetまで。彼女がこの後数日泊まる予定の宿の近くで降ろす。
2人とは15日にロンドンで会うまで暫しのお別れだ。

駅に着いてみると、列車の出発 Plat Form が急に変更になったらしい。しかも正しい指示がなかなか掲示板に表れないし、時間は迫ってくるやらで相当焦った。出発間際にぎりぎりやっと分かる。イギリスではこんな状態で平気なのだろうか?日本だったら大騒動になっているだろう。
途中Leed 駅で乗換えを入れて、ここからは5時間の列車移動。ゆったりとスコットランドの風景を楽しみながらの旅である。窓の向うにはなだらかな緑の丘陵に羊が群れている。

帰路の電車にシャクティさんから電話があった。たった今、かなり好意的な劇評が出たという。先日私に質問攻めしてきたベテラン記者の評だろうか?
シャクティさんはしきりに「あと1週間やっていれば、お客さんが増えたのに」と残念がっていた。その劇評も、今回の宣伝の仕方も、勉強と蓄えである。きっと次に活かそうとすでに思っていた。



以下に、その劇評。私の予想とは違って別の劇評家の手によるものであった。でもここに劇評が載るのは相当良いことらしい

〇劇評「3 Week」, エジンバラ演劇祭専門の劇評「3Week」の日本語訳

テレビのプレゼンテイターは舞台に手を出してはいけない、この事は「プライドとプレジディス」のジョン・レズリーを見た方は涙ながらにも証言出来るでしょう。
ともあれ、このルールは日本では通用しないようである、最近の日本人のプレゼンテイター小宮孝泰が演技に舞台に挑戦しました。日本のテレビについての知識の有る方はご存知ですが、「ロスト・イン・トランスレーション」で典型的に描かれたハイテンションのプレゼンテイターや、残忍なまでの忍耐力を要求されるチャレンジャーとは違い、小宮の穏やかで人を引きつける魅力にビックリされるでしょう。
さらに被疑者が巻き込まれた抗争から真実を引き出そうという試みに催眠されるかのように引き込まれます。ゆっくりと進行しますが、だれる事も無く、内容の辛辣さをウイットで包んだ、注目すべき作品。

※下記は原文
Jail Talk
Takayasu Komiua
TV presenters should stay off the stage, as anyone who saw John Leslie's performances in 'Pride and Prejudice' will tearfully testify.
However in Japan no such rules apply and the latest Japanese presenter to try out acting is Takayasu Komiya. Anyone who's knowledge of Japanese television is of sadistic endurance challenges and high-octane presenters of the kind found in 'Lost in Translation' will be amazed at Komiya's gentle, engaging and almost hypnotic performance as a lawyer trying to get the truth out of his client about a fight he was involved in.
Slow-moving but never dull, the show's poignancy is matched by its wit. A remarkable production. [gja] The Garage, 7 - 13 Aug, 12:30pm (1:45pm), £8.00 (£7.00), fpp 157. tw rating 4/5




午後9時45分、King Cross 駅に到着。
夜のロンドンは冷たい雨が降っていた。季節も変わってしまったような気さえする。Taxiに乗り、Camden Lock Hotelへ直行。
チェックインを済ませ、荷解きをしてからホテルのそばのパブを覗く。ところが土曜の深夜のパブは、まともに話が出来ないほど騒々しい。ビール一杯で仕方なく寝ることにした。


8月14日(日)
ロンドン初日は日曜日。きちんと早起きして朝食。
ホテルがあるのは去年3ヶ月滞在していた Camden Town の街のそばである。
Chalk Farmの駅で1Day トラベルカードを購入。武川さんにも買い方を指導。その後1年ぶりにCamden Lock のSTABLE MARKETを散策。早朝の為、まだ開店していない店が多かった。
武川さんはCamden Town の駅から地下鉄に乗り、そのまま市街へ出かけていった。

私たちは運河の側で食事をしたりしながら、運河ボートの出航時間を待つ。今日はLittle Venice までゆったり往復の船旅である。女性ガイドの説明を聞き、London Zoo の辺りを眺めながら細長いボートが進んでいく。途中運河の水を堰き止めて水位の高低を調節して進む。行きは上流に向かっているようだ。両岸には水上生活者や飼い犬や水鳥が目を楽しませてくれる。Littele Venice の辺りでは釣り人の姿もあった。

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これが運河の眺め
このままイギリスの西側海岸まで続いているという


復路の船中から演出家のGlen Walford に電話連絡。まさかと思ったら彼女は在宅で、しかも明日の「JAIL TALK」を観にきてくれると言う。ラッキーだ。
説明しておくと、Glen は10年位前に私が唯一シェイクスピア作品に出演した「ヴェニスの商人」を演出していたイギリスの女性演出家である。
※詳細は以前のロンドン滞在記を参照あれ。

午後はピカデリーサーカスまで出かけ、JAPAN CENTREのレンタルPCでインターネットの作業。一行レビューで日本の演劇情報を確認。それから自分のHPの掲示板に書き込みをする。

夕方になって去年3ヶ月住んでいたフラットの大家さんに挨拶に行く。懐かしいバスに乗ろうとバス路線を捜すが、はっきり覚えていない。情けないことに、嫁さんの方が道路情報をしっかり覚えていた。
1年数ヶ月ぶりに大家さんと対面。日本のおみやげと嫁さんの手作りカレンダーを渡す。そのカレンダーには、去年撮ったこの家の猫達がデザインされているのだ。
その名も「London Cats Calendar」!

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大家さんとツーショット
去年日割りで少し払い過ぎた家賃や電話料金をきちんと払い戻してくれた律儀な人である


そして当の猫のアリスと犬達にも1年ぶりにご対面。去年と同じように犬達は騒々しく、アリスは人懐こかった。彼らも私達の再訪を喜んでくれているようだ。
私が住んでいた部屋には他の住人がいるので見せてもらえなかったが、裏庭には去年はなかった噴水が出来ていた。大家さんの腰痛の話から始まって、ロンドンのテロのことや日本のオウム真理教にまで話は及ぶ。

7時過ぎに武川さんとも待ち合わせして、居酒屋 SOHO JAPAN へ。今回の「JAIL TALK」を翻訳し直してくれた森尚子さんと半年ぶりに再会。マスターの高木さんとは1年半ぶりに再会。日本食(鯵のたたき、イカの刺身、めんたいおろし、揚げだし豆腐、豆腐ステーキ、さんまの塩焼き、)と焼酎で話が弾む。明日はここで「JAIL TALK」の上演であるが、その話とは関係なく盛り上がってしまう。


8月15日(月)
嫁さんとハロッズへ。昨年に引き続きキティちゃんコーナーとペットショップを物色。それにしてもロンドンにもキティちゃんコーナーがあるとは?!

テロのことが頭をよぎったが、ロンドンの移動手段はやはり地下鉄である。今年も面白い広告を発見。

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日本のビールの背後の陰には悪魔が!
そんなに日本に悪意はないと思いたいのですが・・・


Leicester Squareで、明日の観劇用にハーフプライスチケットの下見。
ついでに去年通った俳優学校の Actors Centreに足を伸ばし、お茶する。
学校のそばにある廉価CDショップのFopp では、CDの代わりに商品がほとんどDVDに様変わりしていた。たった1年で主流が変わったことを実感。

途中の銀行でトラベラーズチェックを換金しようと思ったら、パスポートを持っていないことに気付く。パスポートがないと換金できないのを忘れていた。。ホテルに戻ってパスポートを取ってきてから、やっと換金する。

そんなこんなでSOHO JAPAN 集合タイムに遅刻。地下のパーティー会場ではオペラ歌手の榎本さんがピアノに合わせてレッスン中だった。
結局諸事情が重なり、リハーサルが満足に出来なかった。予想を上回る観客動員のようなので、客席作りにも手間がかかってしまった。

7時20分本番開始。本当は7時開始の予定だったのだが、ロンドン時間では30分は遅らせた方が良いという高木さんの説得で開演を20分ほど遅らせる。確かに遅れて来た人が多かった。きちんとした劇場公演ではないので仕方ないのだろう。
”Do in Rome, as Romans do.”(郷に入っては郷に従え)である。
高木さんの知人の立派な紹介のあとに前説を始める。
Glen Walford も観に来てくれたし、40人以上のお客さまで小さなパーティ会場は満杯である。
森尚子さん、漫画家の玖保キリコさん、元JAPAN SOCIETYの林里奈さん、去年テルフォードの高校のワークショップでご一緒した和食の先生、俳優の伊川東吾さん、歌手の榎本明子、JETROの谷さん(何と谷さんは今日がロンドン赴任の最終日。明日は日本に帰るそうである)。去年お世話になった顔ぶれが大勢揃ってくれた。ありがとう!
SOHO05

上記のようなメンバーで記念写真
ちょっと見にくいかな?


打ち上げの後も、SOHOのSpanish で盛り上がる。


8月16日(火)明日は帰国。早いもんだ。
朝から帰りの荷造り。
芝居のアンケートやら、劇評やら、おみやげやら、とにかく荷物が増えてしまったので郵便小包で先にそれらを日本に送ることにする。計量したら10Kgを越えていた。送料も£92。2万円近い。高いが仕方ない。

午後はバッキンガム宮殿に行く。去年も行きそびれていたので、初観光だ。ところが、この行き方が案外難しい。周りの公園が広いので最寄の下車駅もはっきりしない上に、やたら歩かなければいけないわ、入場チケット購入場所やトイレがなかなか見つからないわで随分不便さを感じた。初めて行く人には厄介な場所である。
さて宮殿内の豪華さはさすがだが、意外に小さいと感じる人も多いのではなかろうか。見るべき物が多いので、ゆっくり見る余裕のある人に薦める。トイレのことや時間を気にしていた私たちはそそくさと退出し、あまり良い見学者とは言えなかった。

宮殿からハロッズへ行き、アフタヌーン・ティーを摂る。サンドイッチやデザートなどボリウムたっぷり。よく食べる国民なんだなと思う。この時間の使い方の優雅さは、貧乏性の私には向いてないかもしれない。途中から落ち着きのなくなった私に嫁さんが不服そうな顔をしていた。

Green Parkで日本大使館に寄る。昨年お世話になった書記官のQさんと面会。今年は日欧の文化交流の記念年に当たる。事前にそのロゴの使用許可を頂いていたので、こちらで作ったロゴ入りのポスターなどを証拠資料として渡す。代わりに記念のバッジやらシールをたくさんもらった。忙しい中の面会に感謝。

夜から観劇。
London Bridge の駅で下車。Chocolate Factoryという、昔はチョコレート工場だった場所を改造した小劇場で「Tick Tick Boom」というミュージカルを観る。現在この出演者が3人だけのミュージカルが人気なのだという情報を得ていた。
物語は映画作家志望者の主人公と恋人の恋愛模様。これに黒人ゲイの友人との友情が絡むシンプルな内容。でも仕上がりが丁寧なことと、演者の好演でなかなかの逸品だった。
ロンドンの最後の夜に乾杯!



8月17日(木)最終日
朝6時に起きて、ヒースロー空港へTaxiで急ぐ。

行きと同じく、アムステルダム経由の帰国の旅である。
機内がやたら暗かったので、食事以外はほとんど何も行動できなかった。
到着時間が近づい、てやっと映画を見ることが出来た。邦画の「Lady Joker」に見入っていたら、突然機内アナウンスで全てが中断してしまった。何てことだ!

成田に着いてみれば、日本はまだま充分夏の盛りであった。


8月にスコットランドに行く人には、上着を必ず持っていくことをお勧めします。日本は夏でも、あちらはもう秋なのです。




[以下に今回の劇評などを載せます]

実は下記が前述のベテラン記者の劇評です

〇演劇雑誌「ザ・ステージ」の劇評の日本語訳
( エジンバラも含めた演劇専門誌の劇評)

ジェイル・トーク(接見) 日本人のテレビ・スター、小宮孝泰は乏しい英会話力を駆使して、英訳された一人芝居を演じ、水谷龍二の戯曲に一味加えた。小道具としてはテーブルとブリーフケースのみで、演じるのは分けの解らない世界に、魔法のように呼び出された変わり者の弁護士・檜常太郎は傷害事件の被疑者で得体の知れぬサラリーマン塩川秀夫の弁護を引き受ける。
この複雑なケースの解明に対して実質的に殆ど無口の被疑者を相手に、この弁護士は怒りを募らせて行く。と共に一見無関係とも見える個人的な回想や、舞台上で繰り広げられる筋肉の痙攣による発作が頻発する。被疑者が著名なラブソングを代弁として最後に告白するのだが.....
小宮の秀逸な演技は観客に多くの微笑みをもたらすが、上演時間を少し切り詰めたほうが英国の観客には親切であろう。
ブライアン・G・クーパー

※下記は雑誌とインターネット上のサイトに載った原文
Jail Talk
Japanese TV star Takayasu Komiya has scant conversational English yet incrediblysustains a 75 minute English language monologue and a translation of Ryuji Mizutani's original script with ready zest.
Using only a table and briefcase as props, he conjures the confused world of eccentric lawyer Jotaro Hinoki, defending Hideo Shoikawa, a mysterious salaryman, on an assault charge. As the complexities of the case unravel,the lawyer becomes ever angrier with his virtually silent client, indulging in irrelevant personal reminiscence and increasingly succumbing to strange muscular spasms which hurl him around the stage.
His client's final confession through singing a popular love song leaves him exhausted. Komiya's commendable performance brings many a chuckle but a slightly shorter performance time would better suit British audiences.

Brian G Cooper
Friday 12 August 2005 04:10 PM

Production information
Management: Takayasu Komiya
Run time: 1hr 15mins
Production information can change over the run of the show.






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