角野卓造(俳優)
同じく、私のひとり芝居「接見」への推薦文

「接見」における小宮君の精緻な、生活感のある演技は、”上手い””下手”を越えて”正しい”演技と呼ぶべきものです。

初演の2日目に角野さんが観にきた日に私はとんでもない失敗をやらかした。いわゆる2日落ちにならないようにと注意して演じていた私は、途中で芝居の流れがおかしいのに気づいた。どうも展開が早過ぎる。それもそのはず台本を2ページ分飛ばしていた。分かった時には時すでに遅く、戻るわけにもいかない。冷や汗をかきながら、それでも辻褄が合うかどうか演技の進行中に考えていた。幸い練習はかなりやっていたから、喋り演じながらでも思考は可能だった。そして物語の筋はほとんど壊れずに進むことが分かった。ただかなり良い部面、主人公の人となりの部分は捨てることになる。終幕に向けて繋ぎのアドリブなどもまじえて、その場は何とか凌いで芝居は幕。しかし水谷さんが楽屋にすっ飛んできて「2日目にやってくれるじゃねえかよ!」と蹴りまで入れられた。
舞台上の私より作・演出の水谷さんやスタッフの方が気が気じゃなかったようである。
終演後いつものように飲み屋に。そこには角野さんもいた。水谷さんが開口一番「小宮、今日飛ばした部分をここでやってみろ」と切り出した。私もそんなことを言われる予感はしていた。衣装の女物の下着は着込んでいた。飲み会のお客さんの前で、説明・言い訳を取り混ぜて5分ほど居酒屋で芝居をした次第である。
その後角野さんに聞いたら「そんな失敗があったなんて全然気づかなかった。充分面白かったよ」と言われ、恥ずかしいやら嬉しいやらの夜であった。
私の芝居歴の中でもベスト、いやワースト3に入る経験だった。


風間杜夫(俳優)
私のひとり芝居「接見」への推薦文

「接見」を観て腹が立った。こんな良い芝居は観るものじゃない、やるものだ。小宮、安心して不摂生しろ。倒れたら、俺がやる。

風間さんは初演の初日に観に来てくださった。ちなみにこの日の観客動員は100人ぐらいで(小さい劇場なので、これで超満員だった)、そのうち身内や知人の役者さんが30人ぐらいいた。


角野卓造(文学座俳優)
「小宮さんへ」


 僕がまだ30代半ばで、まだ世間に何者なのか知られていなかった頃、テレビドラマ収録中の現場にコント赤信号の3人が突撃取材にきてくれたことがあって、その時小宮君が「角野さんは別役実の芝居をやっている人ですよ」と僕が芝居人だということをきっちり言ってくれた。当時彼らはお笑いの世界で活躍していたが元々は芝居人だから、こだわって言ってくれたことがとても嬉しかったのを覚えています。
 星屑の会のメンバーの何人かとは一緒の舞台に立ったこともあり、また水谷さんも一昨年文学座に「缶詰」という芝居を書いてくださっていて、とても親近感を覚えます。
 会の中でも小宮君はその牽引力になっている。本当に芝居が好きな人だ。彼の姿勢は、ある種硬質で、観客に媚びないそのプライドが僕は好きです。
 これからもずっと、こだわりのある芝居者としての意地を見せてほしいし、僕はずっと彼のファンで居続ける。

≪居残り佐平次≫2002年5月の明治座公演プログラムに書いてもらいました


松永玲子(ナイロン100℃女優)

komimatsu
「小宮さんの印象」

私にとっての小宮さんの第一印象はものすごく悪いです。
数年前のナイロンの若手公演の打ち上げ会場。小宮さんの隣に座っている若手女優が泣いている…小宮さん的には泣かせたつもりはないのかもしれませんが、遠くのテーブルから見る限りでは、小宮さんが泣かせている。怖っ!遠いから何喋ってんのかわかんないんですけど、小宮さんの口はまだ動いている、泣いてる女をまだ攻めてるのか?怖っ!
ところが、小宮さんをよく知る人達は皆、揃いも揃って「あの人は、ホントいい人。」「あと、泣く」「芝居が本当に好きなんだろうね〜。」という話で盛り上がります。「泣く?“泣かせる”の間違いじゃなくて?怖い人じゃないの?」と聞くと、即座に「いやいやいや」と否定の言葉が返ってきます。あれぇ?

その後、ナイロンの公演にゲスト出演していただくことに!
小宮さんを恐れている私は、注意深く稽古場での小宮さんの様子を見ていたのですが、小宮さんは稽古見て笑ってる笑ってる、楽しそ〜に。そして優しい。あれぇ?
この芝居で小宮さんは、背丈以上の水深でスーツ着たまま溺れる役でした。暗転中に水槽から上がる時には、濡れたスーツは異常に重く、ぜーぜー言って必死に、まさに“必死”に上がってくる小宮さんを私は上から引っ張り上げていました。小宮さんはこのシーンのせいで風邪を引きました。文句を言うどころか「風邪引いちゃったよ」と、どこか嬉しそうなのがものすごく不思議でした。

その後私は、小宮さんの拠点、星屑の会に出演できました。出演できたのも「出たい出たい」と言う私を小宮さんが推薦して下さったお陰です。星屑の会での小宮さんは、家族で言うところの、お母さん、もしくは飼い犬です。勝手なおじさん達の話を「うんうん」って聞いたり、ボケて周りが和んだり、不安そうにしている私に声をかけてくれたり。それまで私が見ていた小宮さんとは全然違いました。本当にいい人なのかもしれないと思いました。この思いが決定的になったのは、公演中のある日、小宮さんは大遅刻なさいました。開演に間に合いましたが、起きてから舞台に立つまで一息つく時間がなかったのでしょう、いつもより多くの汗をかいてらっしゃいました。
小宮さんがソファーの周りに座って人の話を集中して聞くシーン。お客さんからはあんまり見えない位置なんですが、ソファーに座っている私からは小宮さんが丸見えでした。大汗、垂れた目、そして目尻からは黒〜い汗がダラダラと・・・アイライン取れて来ちゃったんだ・・・。小宮さんには申し訳ないですけど、おかしくて情けなくて可愛くて苦しかったです。病気の犬みたいでした。本物の犬なら絶対「よ〜しよしよしっ」って撫でてます。

このように、私の中の小宮像は“怖い人”→“ワンちゃん”へと変化しました。小宮さん、どっちがいい?
あ、まだ泣いてるところは見てないです、泣きそうなところまでしか。

2002年春この欄への書き下ろし


「嫌な奴」


水谷龍二(劇作家、シナリオライター。”星屑の会”座付き作家)


波乱万丈に生きている人間が心底羨ましいと思うことがある。物書きにとって経験はやはりモノをいうからである。そうかといって突然生き方を変えられるものではない。結局は他人様の貴重な体験に耳を傾け、あとは想像力で書くしかない。
芝居を書くときもほとんどが当て書きである。役者からイメージが膨らみ設定が生まれることもある。星屑の会には個性派が揃っている。ラサール石井、小宮孝泰、でんでん、渡辺哲、有薗芳記、菅原大吉、三田村周三といった面々であるが当て書きしやすい役者ばかりだ。
中でも小宮孝泰、ここからが本題であるが、小宮をどんな役にするかで頭を悩ませた覚えがない。今まで彼がやった役をざっと挙げてみる。小心者で神経質なサラリーマン、年老いた偏屈なホームレス、コーラスグループの頼りないリーダー、元ヤクザの芸能マネージャー、ニヒルぶってる中年ホスト、酒癖の悪い寸借詐欺師、意地の悪い出世主義の自衛官、小物のくせに偉そうな渡世人など小宮がやったら面白いと思う役ばかりだ。実際面白かった。しかしよくよく見ると、嫌な奴ばかりだ。しかも恐ろしいことにタイプが二つに大別できる。いい人そうに見えて少しずるい人間と、ひがみっぽい人生の落伍者である。今までいろんな役をやってもらったと思っていたが、実はたった二つのキャラクターしかなかったのだ。
mizutaniそれはさておき、小宮孝泰は研究熱心な役者として知られている。役者には役を自分に近づけるタイプと自分を役に近づけるタイプがあるが小宮は後者で、役に近づくためなら女房だって質に入れかねない。メイクは誰よりも念入りだし、衣装小道具は自分で探してくる。役を演じることに彼ほど没頭できる役者はいない。といえば聞こえはいいが、要するにそういう性格なのだ。地方公演中、休日のスケジュールに没頭している小宮を楽屋で注意したこともあった。
最近、飲み屋で熱弁をふるう小宮をとんと見かけない。歳のせいもあるだろうが、きっと無駄にエネルギーを使うまいと思っているに違いない。いよいよ役者人生に磨きが掛かってきた。
今回の芝居で小宮がどんな役どころを演じるのかは知らないが、願わくば普通のどこにでもいそうな人間であってほしい。無論内側には少なからず問題を抱えているのだが・・・。そんな小宮も見てみたい。
実際の小宮は真面目で釣りが趣味の気のいい男である。

2000年7月、渋谷パルコ劇場公演「ディナーウィズフレンズ」のパンフレットに寄せて
(上記掲載の写真は「星屑の町」の稽古場で談笑する水谷さんです)



「小宮さんの事」


三宅弘城(俳優。劇団ナイロン100℃所属)


小宮さんのもみ手しながらヘラヘラする芝居の似合うところとか、人から逃げ回ってる姿とか、「やめてくれよー」っていうセリフがはまるところとか、この原稿で「どうせ変な事書くんだろ」って気にするところとか、酔うとすぐ泣くとか、いい意味で貫禄がないところとか、僕好きなんスよねえ。あ、これホメてんですよ、小宮さん。

2000年5月、星屑の町/長崎慕情篇のパンフレットに寄せて





「小宮さんのこと」


渡辺えり子(劇作家・演出家。元劇団3○○主催)


四年前、シアタートップスで「淋しい都に雪が降る」という水谷龍二氏の作品が上演され、小宮さんがホームレスの老人役を演じた。
気弱で純朴、真面目なお人よしといった今までの役柄とはガラリと変わり、煮ても焼いても食えないような、しつこく芯の太い、世界的な老人を、ストイックに見事に演じていた。
何やら暗く、近寄りがたい、負のパワーとでも言おうか、凄みさえ感じられたのだった。
小宮さんの芝居好きは、小劇場界では有名である。この20年の間、小宮さんはアングラからシェークスピアまで数々の舞台に出演した。そして舞台に上がっていない時は、東京のあらゆる劇場の客席に坐っていた。
私も、新宿や下北沢の劇場で、良く小宮さんにお会いした。
eriko私が初めて小宮さんにお会いしたのも、やはり劇場で、十年以上前、「ゲゲゲのゲ」の再演を本多劇場で上演した時、小宮さんがわざわざ楽屋を訪ねてくださったのである。
神経質そうな早口で「今度、出して貰えませんかね」と突然おっしゃた時、不覚にも冗談だと思い大笑いしたものだった。当時の私は、小宮さんを、テレビで見たことのあるお笑いの方以外のイメージを持てずにいて、今考えると、失礼なことをしたものである。
二年近く前、内藤裕敬氏の「青木さんちの奥さん」で共演させていただいたが、アドリブ中心の芝居のためか、稽古もしないで卓球ばかりしている毎日が不安になり、「稽古しよう!稽古!」と私が演出に噛みついたりしても、本当は稽古好きのはずな小宮さんは、おっとりニコニコと自然に状況を受け入れ、度量の深さを見せてくれた。自分にきびしく人に優しい方である。
コツコツ小金をため込んだお鹿バアサンじゃないが、小宮さんは出演なさった一つ一つの舞台での経験を着実にため込み、毎回毎回成長して行ってるようだ。おごることなく、いつも低姿勢に保ち、芝居をつかんで離さない。良い意味でのガメツイ奴なのである。
どんな状況下でも生き生きと明るく、本当のケチにはなり切れない健太という役は、小宮さんの胸の中に棲むもう一人の小宮さんに似ている。貧しさも、地獄も受け入れ、許し、そして前に進んでいく「光」のある役柄は、芝居好きの小宮さんにぴったりだろう。今度はどんな演技を見せていただけるのか楽しみである。公演の成功をお祈りしております。

1995年3月蝉の会公演「がめつい奴」のパンフレットに寄せて
(上記写真は渡辺えり子さん主演の2000年夏のお芝居「花」のイメージ写真です)




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