2月15日(日)
なかなか起きられない日曜日。
10時過ぎにやっと起きる。今日はパンとタンドリーチキンで朝食。
日本の我が家に、改めて送ってもらいたい物などを再注文する。

洗濯なんぞもする。こちらの洗濯機はキッチンに据付き型が多いみたいだ。日本の乾燥機みたいにくるくる回るやつ。とにかく全自動。この部屋の機械は洗剤がうまく流れていかないので、じょうろで花に水をやるように毎回ポットで水を流し込んでいる。ちょっと手のかかる、ほとんど全自動の洗濯機。
それからイギリスでは洗濯物は外には干してはいけない規則になっている。恐らく美観の問題だろう。部屋の中で、各家庭工夫を凝らして干しているようだ。以前泊めてもらっていたホームステイ先ではパネル式のセントラルヒーティングの板に貼り付けて干していた。女性の下着もね。
現在ここでは前居住者が残してくれた折りたたみ式の物干し台で寝室に干している。何かせせこましい気もするが、仕方ない。郷に入っては郷に従え。When in ROME, do as the ROMANS do.である。
ちなみに2年前に行った上海では、長屋の風景には屋根伝いにズラッと並んだ洗濯物が印象的だった。所変われば品変わる。So many countries, so many customs.である。

天気が良いので、午後近所を散歩する。と思ったら、空いっぱいに、どんよりとした曇り空になってしまった。本当に天気が変わりやすい。いつもは通らない道を反対周りに歩いてみる。どこかの学校の校庭でサッカーの試合をやっている。その周りにもサッカーボールを蹴る少年たちが屯している。やはりサッカー(イギリス英語では Foot Ball)の国だ。近所のCANTELOWES PARKではローラーボードをやっていた。それ専用の造りになっているのが素敵だ。
木のいっぱいあるCAMDEN SQUAREには可愛いリスをチラホラ見かける。いいね。ま、犬の糞も多いんだけどね。猫が小鳥を狙っている姿もよく見かける。あいつら本気で狙っている。この国では本能を失わない飼い猫たちが多い。私のフラットの大家さんの飼っている猫も、人に甘える仕草は見せるが100%の信頼性をこちらに預けない。どこか冷めていて、安心していないのが分かる。
CAMDEN SQUAREに桜を発見。厳密には少し違うのだが、ほとんど桜。この季節に咲いている。思わず寒桜を見つけて、えもいわれぬ気分に浸る。
一番近くのTESCOでウィンドウショッピング。今度はこれを買おうかなどと色々と品定め。牛のステーキと鯖の塩焼きが美味しそう。
結局何も買わずに帰ってきた。
そうなのだ、この日は本当に一銭も使わなかったのだ。財布から1円も、いや1ペニーも出さなかった。夜も自炊したから出費はゼロ。これって凄いことかな?考えてみると電話では数人と話したが、今日は誰とも面と向かって話をしなかった。とにかく長時間パソコンと対峙。何せ書き残していることが多い。


2月16日(月)
朝、小田原の母から電話がある。ロンドンに本当に電話が出来るのかどうか心配のようだ。こっちから電話してみたり、してもらったり何度か試す。
確かにこちらの受話器やFAXも調子がよくない。

前から気になっていたので、Time OutやMetroやらの地元情報誌、ロンドンの生活本でロンドンの劇場事情や今上演している芝居を細かく絞り出してみた。少しずつ分かりかけてはきたが、それにしても情報が多い。”ぴあ”より読み取るのが大変だと思う。うーん私の英語力のせいかな?
昼過ぎにTESCOに行ってお買い物。でっかいチキンの足の照り焼きが美味しそうだ。

ところで、こちらの地下鉄では踊り場のような広場でパフォーマンスをやっている駅が多い。大きい駅では必ずと言っていいほど何かやっている。またどこだかの会社(ビールのCARLINGでした)がスポンサーになって、きちんとパフォーマンスゾーンが会社の宣伝の絵柄と共に踊り場に仕切ってある。そこでならはフォーマンスを自由にやっていいという許可である。さすが芸術表現の評価が高い国である。
そんな中で、ギターやサックスなどではなく、生真面目な声楽のパフォーマンスをやっている女の子がいたのは笑えた。あんな場所でオペラのような発声で歌っている姿はツボにはまった。残念ながら、あまり投げ銭の実入りは少なかったようだけど。
Brixtonで見かけた女の子2人のツィンボーカルの中国系ミニバンドは下手だったなあ。あんな下手なのもいるんだね。これも当然お金はあまりもらえていなかった。
時々地下鉄車内で突然始める奴もいし、どう聞いても歌い方で日本人だと分かる人もいた。日本人の歌も特徴的なのだろうか?いや誰かの真似で、画一化されてるのかな?

ハープライスでミュージカルのチケットを買う。掲示板の出ている公の売り場。 Leicester Squareでは他にも各所でハーフプライスチケットを売っているが、よその店と値段はどう違うんだろう?今度調べてみよう
Covent Garden駅の THEATRE ROYAL DRURY LANEで「Anything Goes」を見る。
2年ぶりに来たCovent Gardenのマーケットは素敵だった。早い時間に来て目でショッピングを楽しもう。買うと高そうなアンティークが多いから。
THEATRE ROYAL DRURY LANEは歴史のある有名な劇場の一つ。ミュージカル専門のようだ。ちなみに「ミス・サイゴン」も、ここ発。
「Anything Goes」の1幕は人物紹介が多くて凡庸で退屈だった。しかし休憩後の2幕に入ると俄然振り付けが面白くなり、1幕の振りが生きてきて人物の絡みも面白くなった。結婚願望の老人と、人の良い悪党の男性俳優2人のキャラクターが印象に残った。私が声を出して笑えたのはその老人が眼鏡を失くしておろおろする体の動きのギャグだけだった。もっとも他の客は全然笑っていなかった。脇役芝居まで見ている私が細かいのか、観客のセンスが問題なのかは分からないが。
カーテンコールで中心になっていたのは物語の主役の男性ではなく、1番多くヴォーカルを歌っていた年上の女性だったのが不思議な気がした。多分イギリスの芝居の作り方は、まず作品ありきで、それからキャスティングが決まるのだろう。日本だったら商業演劇の座長はどこをどう取っても座長に見える位置にしか収まらないはずだ。
演劇感の違いである。

夜、日本から依頼があった「こち亀」のマンガ本に寄せる原稿を書き始める。内容は去年の「こち亀」舞台のこと。私はTVのアニメに引き続き”夏春都”婆さんを演じていた。


2月17日(火)朝から雨。これがロンドンらしいのか。
Eton CollegeのIさんに落語ワークショップなどの資料を送る。
その他、日本大使館、演劇プロデューサー、お世話になっている林さんなどとも連絡。こういう事務的処理にかかる時間と精神的負担が意外に大きい。如何に日本ではマネージャーやスタッフに頼っているかが分かる。

R.A.D.A.の個人授業の先生の一人JHON GRAYさんのEarls Courtの自宅まで、アレクサンダーテクニックを習いに行く。アレクサンダーテクニックとはオーストラリアの俳優さんが考え出した体の矯正プログラム。今や演劇関係だけでなく、医療にも使われているそうだ。自宅の1室で彼のなすがままに体をほぐす。
英語は半分くらい分かりそうなので、通訳は頼まないことにする。

Foppで見つけたスパイク・ジョーンズが売り切れだ。日本のコント番組でもよく使われていたような脱線音楽の基本形がそこにあった。クレージーキャッツもこの人の音楽に憧れていたらしい。私のお気に入りの逸品で、値段も安くてパンタロン同盟の仲間ににもお土産にしようと思っていただけに残念だ。特別商品なので取り寄せも出来ないと店の人にあっさり言われてガックリ。あの時あるだけ買い占めればよかった。

楠原さんの紹介で、伊川東吾さん、多胡さん、外島さん、とシャーロックホームズで有名にになったパブでビールにフィッシュ&チップスで乾杯。
伊川さんは元黒テントの役者さんで、イギリス人女性と恋をしてこちらに住み着いてしまった俳優さん。あの「ラスト・サムライ」にも切腹する政府の軍人として登場している。ヨーロッパで成功している数少ない日本人俳優さん。多胡さんは元NHKのディレクター。現在はこちらでフリーライターをやっている。外島さんはニュースダイジェストの女性編集長。なかなかアカデミッなメンバーだった。楠原さんもいつになく含蓄のある言葉を吐いているのが可笑しかった。
全員で移動。例のSoho Japanで食事にする。ここでフジTVロンドン支局の守谷さんも合流。守谷さんはとんねるずの番組なども手掛けた方だ。やはり日本人コミュニティは良い意味で狭い。ロンドンにいるだけで、まあコント赤信号という理由も充分手伝っているのだが、日本ではあまり接触のない人脈とどんどん会うことが出来る。
今日は芸能関係者がほとんどなので日本のドラマやバラエティ番組の深い話しも飛び交って楽しかった。伊川さんが最近の日本のTV番組の話になると「火星の話のようだ」と言っていた。そこまでイギリス人になってしまっているのだ。逆に楠原さんは家で日本の番組ばかり、大河ドラマなんか毎週見ているので、私より日本のTVに詳しいくらいだ。イギリスでの生き方として好対照の2人だ。2人とも大きな声なので、ちょっとした言い合いが論争のようになる。見てると可笑しいが、お互い誰も知らない異国の地で踏ん張ってきた俳優仲間だという安心感と信頼感の共通言語があることがよく分かる。
お2人とも頑張ってください!


2月18日(水)
朝から電話のやり取り。文化交流使のお努め。

午後2時、Actors Centreで初めての授業。英語の拙い私が許可されたクラスはBasic Acting。つまりは演技基礎。47歳でここにチャレンジ!
まずは自己紹介など。先生は50台半ばくらいの女性、パトリシア。生徒は私を含めて6人。もちろん私が最年長。
ざっとメンバーを紹介すると、歌手のビッキー、小柄だが美人だ。元ダンサーのヘレン。彼女はオーストラリア出身のグラマラスな女性。一見普通っぽいジュリアン。彼女は理屈好きそうだ。
男は身長が2メートルを越すらしいジョン。彼とジュリアンが何かやると本当に凸凹コンビになる。フィリピン生まれでハーフのトレイ。茶目っ気もある好青年。
中でヘレンとジョンが日本で生活していたことがあるらしい。ヘレンは伊豆の長岡でダンサーをしていたという。うーん怪しげだ。ジョンは主に九州で英語の教師をしていたそうだ。時々私にだけ分かるように日本語で”何だこの野郎!”とか言って笑わせてくれる。トレイも何かの撮影で東京には来たことがあるらしい。意外に日本通が多かった。

次に好きな芝居やら俳優やらをそれぞれ語った後で、ウォーミングアップのゲームが始まる。これは予想通りの展開だった。日本でも最近よくやるが、元はヨーロッパの形式のようだ。
中で単語の発想ゲームもあった。手を叩きながらリズムを取って、次々に前の人が言った言葉から次の言葉を連想するゲーム。例えば"blue”と言ったら"sky" 、続いて"airplane"・・・と次々に展開する。最初は不安だったが、単語だけなので何とか乗り切る。先生も”Your English is good.”と褒めてくれた。

次は物になるエチュード。誰かが”I'm tree.”と言って木になる。そのシチュエーションを考えながら"I'm a dog"と言って木に繋がれたり 、"I'm a bench"と言って側にしゃがんだり、もちろんそのベンチに座る人間になってもいい。私はお祈りの場面では悪魔に、船の場面ではサメになったりしてみた。
次は、それが発展した形。今度は教室内にある椅子や机、その他あらゆる物を使って場所と状況を作る。最初の先生の指示はモーターボートで優雅に過ごす人々だった。早速みんなで物を動かし始める。最終的にトレイが水上スキーを楽しむ人になり、他のみんなはボートではしゃいでいた。簡単に言うとこれは風景を創る作業だ。
間を置かずして、今度はその作った状況で即興劇が始まった。この辺から私は慌てだした。何しろ初日から英語の即興劇だ。私以外のみんながあっという間に考えた設定はこうだ。ブラジルの暑い日中。ここはごく普通の学生のフラットシェア。寝室は2つ。横にバストイレ。リビングとキッチンが隣り合わせで、今は友達4人がそこでくつろいでいる。私とヘレンが後から遅れて部屋に入ってくる。私はブラジルの歴史を勉強に来た日本人。
これに有無も言わさず参加させられる。一斉に4人が喋りだした。ヒエー、エライこっちゃ。とりあえず私は英語の下手な典型的なお馬鹿日本人を演じてみた。それしか方法ないんだもん。先生ニッコリ、何とかはまる。ヘレンが突然怒り出して私を引っ張って家から飛び出た。何事なのか分からないが仕方ない、なすがままだ。今度はヘレンが”何かの理由で、もう1度家に帰りましょう”と言う。そんなワガママなと思うが、これも仕方なく知恵をひねる。私が書類の忘れ物をしたことにして部屋に戻った。先生またニッコリ。ヨシ!
一安心していたら今度はヘレンが突然”TAKA(自分で指定した私の愛称。イギリスではこういう風に呼び合うことが多い)が、日本の話しをしたいそうよ”と全然私が思ってもいないことを言い出す。おいおい、他人の行動を指定するなよと思うが、もちろんこれも逆らえない。苦肉の策で落語をやることにする。”今から日本の古典芸能の面白いお話しをやります。時間は5分くらいかかるけどいいかな?面白かったら笑ってもいいよ”と子供のような説明をしてから、やおら床に座って例の「厩火事」をやり始めた。みんな意外な展開に面食らっていた。仕方ないよ、その前にこっちが面食らってるんだから。1分くらいシーンと静まり返った状況で私が語っていたら、先生が咄嗟の機転でドンドンドンと玄関のドアを叩く音を出してくれた。誰かが”ピザが来たわよ”と叫んでみんな一斉に玄関に集まった。そういえばさっきピザの出前を誰かのアドリブで頼んでいたっけ。私は一人取り残されて、中途半端に落語を続けていたが”続けてもいいかい?”と聞いても誰の返事もないので、すごすごとお終いにした。私だけでなく、みんなもこの展開に困っていたのは明らかだった。そして私が見事に馬鹿な日本人を演じ切ったのも確かだった。
この後この即興劇は数分続いた。後半はもう覚えていないほど混乱していた。

とにかくロンドン俳優修行の第1日めが終わる。3時間の授業が、その倍にも思えるくらいの初日だった。

Foppでモンティパイソン(£7)とローレル&ハーディ(£3)のDVDを買う。2枚で£10。これは安い。
Actors CentreのBarで紅茶(60p。これも安い)で「接見」の英語版4場を覚えながら粘る。

楠原さんの紹介してくれた芝居を見に Northern LineのOVALの駅まで行く。Oval House Theatreでイタリア人女性のパフォーマンスを見る。公共のタウンホールのような施設らしい。2つ劇場があるらしいが、今日見た小ホールは中野の”スタジオあくとれ”みたいな劇場。
さて、今日のお芝居はどうだったかと言うと、実に変梃りんなパフォーマンスだった。ずっと昔に生きていたイタリア女性の妄想の物語らしい。とにかくお世辞にも上手いとは言えなかった。あんまり馬鹿馬鹿しくて失笑してしまうこと数回。一番気になったのはガラガラの客席に対して、たった一人の出演者の彼女が戸惑っていたことだった。こういう場合は客は無視して自分の表現をすべきである。
終演後、この芝居を手伝っていた日本人の女優さん、佐藤さんと話をする。実は楠原さんが彼女を僕に紹介したかったからここに来たのである。館内のBARでビールを飲みながら、彼女にActingの通訳を頼めないかどうかをお伺いした。やぶさかではないらしいが彼女自身の芝居があり、3月のスケジュールは窮屈そうだった。

パフォーマーの女性も話しに加わり、楠原さんが”お客なんか気にしないで、自分の思うことをおやんなさい”と励ましていた。私も同感。元気付けに皆さんにワインをご馳走しました。



2月19日(木)
朝Camden駅前のHSBC銀行でトラベラーズチェックを現金にする。銀行によっても手数料が違うが、金額によっても手数料が違うようだ。恐らく小額は3%、£1,000くらいの高額になると2%のようである。詳しいことは、銀行員の早口の英語からは聞き取り難い。

カムデンでネパール製のセーター風のパーカージャケットを買った。とても暖かそうなので買った。何でもいいから一度服を買ってみたかった。£15。安物買いの銭失いかどうかは後で分かるだろう。

Actors Centreの2日目の授業。
今日のウォーミングアップは、最初は呪文みたいな英文に動作を付ける作業。
分かり易く言うと例えば日本でも知られている”ビビデ・バブデ・ブー”みたいな言葉遊びのような呪文があると思って欲しい。実は長ったらしくて難しくて今日やったのは覚えていないのよ。で、その呪文を言いながらリーダーになった人がやる動きを真似するゲーム。こういうのよくあるね。少し違うのは、その都度使っていい体の部分を先生に指示される。”かかと”だったら”かかと”だけでバリエーションを考えなければいけない。全員にリーダーの役が回るまで続けた。私は最後に回されて、”お尻(Bottom)”の動きをさせられた。

次は、みんなで体を感じる授業・・・だったのだと思う。
誰か一人が横になって目を閉じる。他のみんなはそれぞれ手や肘、ふくらはぎなど自分の決めた部分で横になっている人の体の一部をゆっくり丁寧に触る(もちろん変なところは触りませんよ)。触られる方は終始目を閉じてなすがままになる。
しばらく続けた後でみんなで横になっている人間を転がしたり、持ち上げたりして場所を移動させる。最後に着地。
ヨーロッパ方式では、自分の体や相手の体に直接触れて”人間の体”を感じるレッスンが多いことは体験でも知識でも知っていた。これもその一つのようだ。触られる方はおっかなびっくりの人、気持ち良さそうな人と様々だった。今日は半分の3人だけ触られる。私は来週に回された。

次からのレッスンはなかなか面白かった。
まず、好きな歌のフレーズ、もちろん英語の歌のフレーズを決める。私はBEATLESの「ALL MY LOVING」にした。暗記して歌える数少ない歌だし。この手のレッスンがあるのも予備知識で知っていたので、心の準備はしてあった。
私の選んだ歌詞は”Close your eyes. And I'll kiss you.”歌いだしの部分である。それを繰り返して起きる感情を試すレッスンだ。全員が自分が決めた歌詞だけを口にして開始する。最初はかすかな鼻歌のように、段々大きく、そして動きたい人や他人と接触したい人は自分の意志の通りに自由に行動する。みんなが呪文のように同じ言葉を繰り返して動き回る。初めての体験だ。
次にその中から、ある単語だけを抽出する。私は”EYE”に決めた。暫くはさっきと同じことを単語だけで繰り返す。

さらに、ここで即興エチュードが始まった。各自口に出せるのはさっきの単語だけ。
先生のパトリシアから最初に指示されたのはARMY(軍隊のエチュード)。誰が決めるわけでもなく、一気に自分の役を想定する。順当なところでトレイが隊長になって、軍隊訓練が始まった。ジュリアンが怒られて腕立て伏せをやらされている。

すぐにパトリシアから次の指示が出た。今度はTV局だった。みんな一斉に自分で配役を決める。ジョンがニュースのアナウンサーをやり始めた。トレイはカメラを回している。ヘレンが照明係のようなことをやっている。私は・・・うーん、ちょっと困ってしまった。イギリスのTV状況が正しくは分からない。暫くみんなの行動を見てから、臨時ニュースの原稿を渡すADの役に決めた。これなら後から参加でもOKだ。
カメラに写らないように注意しながら素早くジョンの側に行って新しい原稿を渡す。まあ、マイムなので渡したつもり。ジョンは、それを拒否した。意味のない単語しか発せないだけに、意思の疎通がはっきりしなかった。ジョンが再びニュースを読み始める。区切りのついたところで私はまた新しい原稿を渡す、今度はジョンは自分の股間を気にし始めてズボンのチャックを確かめ素早くジッパーを上げた。彼は私がそれを伝えに来たのだと思ったのだろう。見ていたパトリシアは笑っている。意味の取り違えはあったものの、何だか笑いが取れた。それにしても感心したのはジョンの咄嗟の状況判断だった。ナイスフォローである。


引き続いて、さらにエチュードは進化していった。
今度はその意味なし単語で物語性のある芝居を作ることになった・・・ようだった。みんなで状況を素早く決めた。みんなと言っても、もちろん私以外のみんなで決めてしまったのは言うまでもない。。こういう急を要する場合は私の意見は当然待ってもらえない。お膳立てが出来たところで、英語力の貧弱な私に分かり易く説明するという図式がもう出来上がっていた。大抵教えてくれるのはビッキーかトレイ。ビッキーは特にお話を作る時にはリーダー的な積極性を見せる。彼らの説明によれば、場所は宝石店。ほんの少し前に3人組の泥棒が入り、中の一人が誤って店員を一人撃ち殺してしまった。殺人犯はその一人だけ。丁度居合わせたお客が一人。これで登場人物はまず4人。我々のクラスは6人だから、後の2人はこの事件を捜査する刑事になる。すぐにジョンとジュリアンの凸凹刑事コンビが出来上がった。彼らを部屋の外に出して、こちらの4人だけで内緒で配役を相談する。結果ビッキーが殺人犯。私とトレイが泥棒、ヘレンが無罪のお客に決まった。こう書くと簡単だが、彼らの決めた事柄をその場で判断するのは実は大変なのである。気持ちも焦るからね。

いよいよ刑事が入ってきて、殺人の犯人探しのゲームが始まった。使うのは各自の単語だけ。人それぞれ虚実ない交ぜの即興が始まる。とりあえず私にとっては彼らの母国語の”英語”じゃないだけでも気が楽だった。私は白を切っていた。真犯人のビッキーは最初からナーバスになっていた。そういつまでも彼女をかばえないことは明らかに思えた。

刑事の尋問も厳しくなってくる。一人ずつ監禁されたり、取調室で詰問されたり、彼らの口調も強くなってくる。といっても単語だけだけど。
突然トレイが仲間を裏切った。彼女の罪を密告したのだ。芝居のやり取りだけで充分にそれが私に伝わった。傍から見ていた私は彼を”EYE! EYE! EYE!”と罵った。つばも吐いてやった。トレイは不敵な顔をしている。
今度は私も呼び出され、トレイと話しををすることになった。どうやって彼を説得するのか?単語しか使えないだけに感情表現に行き詰ってきたところで、先生のパトリシアが突然”普通の言葉で会話して”と言った。そのくらいは理解できた。英語解禁である。
トレイが俄然生き生きと早口で語り始めた。30%くらい分かる。”殺人を犯したのは早まって馬鹿なことをした彼女のせいである。我々は単なる窃盗だから長くても2年以内に出所できる”と冷静に私を説得し始めた。感情よりも言葉の容量で引き下がるしかなかった。残念だがそうするしかなかった。後は調書がどんどん取られていって物語は収束に向かっていった。最後にビッキーが抗ったが無駄な抵抗だった。はっきり結末がついて、20分以上も続いた長い即興が終わった。超大作だった。

試みとして私はとても面白かった。
ただ自分で残念だったのは、ビッキーを庇うモチベーションを決めかねていたことだった。最初私は彼女のことを好きだという設定にしようと思った。そうすれば行動が変わってくる。でも恐らくトレイとビッキーが恋人のような設定を作り出すだろうと躊躇してしまったのだ。結局彼らはそんな関係にはしていなかった。みんなそれぞれの動機付けを決めていたようだったので、類型の感情で芝居してしまった自分が悔やまれたのである。
しかし突然のエチュードだから、よしとするか。
反省はしても落ち込まないこと。でないと他所の国ではやっていけない。

しかし後で思ったのだが、このエチュードは英語だから様になるのではないだろうか? これが日本語の単語を使うレッスンとなると格好悪そうだ。例えば誰かが”雨”という言葉を選んだとしよう。終始”あめ、あめ、あーめ、あめー、あめ、あーめー・・・”と感情や調子を変えてやっていたら馬鹿馬鹿しくならないか?ましてや言葉がもっと変な、例えば”眉毛”だったらどうだ。”まゆーげ、まゆげ、まーゆーげ、まゆげ、まゆまゆげげげ”。絶対馬鹿のお遊びだ。きっとこういう場合に英語は素敵なのだ。


後は自分の経験や記憶を使って短いエピソードを作る。トレイが親父さんとの思い出話をまるで落語のように聞かせてくれた。
続いてトレイとジュリアンで、椅子を自由に使って様々な座り方を考えるレッスン。
ビッキーとジョンで、どうしても一つの椅子が欲しい2人の葛藤のレッスン。これなんかゆーとぴあさんから教わった、昔のコントの練習方法にも似ていた。

そして今日は宿題も2つ出た。まず読みたい詩を探してくること。芝居などの台本から会話のある短めのシーンを選んでくること。
早速本屋で本を探す。私が英語で理解できる芝居の台本はわずかしかない。それはテネシー・ウィリアムズだ。実は大学の卒論がテネシー・ウィリアムズだったので、曲がりなりにも英訳を読んだことがある。それに「ガラスの動物園」と「欲望という名の電車」は実際の上演も何度か見ている。最近も篠井英介さんのブランチで見た「欲望」に決めた。名作なだけに、ペンギンブックの安価版もすぐに見つかった。
今回こういう行動は素早いのだ。


アレクサンダーテクニックのJOHN先生に薦められて、R.A.D.A.の劇場で初めて観劇。しかも先生の招待になっていた。
それにしても驚いた。小型ながらも、学校内に天井桟敷のある劇場があるのだ。しかもこの学校には他にも2つ劇場がある。一つは私が「接見」を演じるスタジオ形式の劇場。小劇場の雰囲気だろうか。もう一つはミュージカルをやる劇場。今日は2つの劇場で公演があり、3劇場とも月の半分くらいは、何らかの公演で予定が埋まっている。凄過ぎる。さすが王立演劇アカデミー。

今日の芝居は「The Schoolmistress」。”学校の先生”というタイトルだが、内容はその想像を超える。100年位前の笑劇(ファルス)である。
大胆にかいつまんで言えば、複数組の男女の恋のもつれ合いの喜劇。
日本で言うと文学座のアトリエ公演のように、若い俳優に年配の役もやらせる勉強会の意味もあるようだ。実際若手が全ての役を演じていた。
完全な会話劇だったので、私には分かりづらいところが多かった。
よく笑うお客さんを気になるのか、JOHNが”今日はとても客が悪い。俳優さんに申し訳ない”としきりにこぼしていた。が、私にはそもそも笑えなかったので、JOHNの機嫌の悪さも理解できなかった。”全員が素晴らしく上手なわけではないなあ”と漠然と思っていた。

終演後、Barで一緒になった本校の校長先生のNicholas Barterにワインをご馳走してもらう。John Grayには芝居を招待してもらったし、先生2人に感謝!日本人俳優に親切にしてくれてありがとう。



2月20日(金)
JOHN GRAY氏。アレキサンダーテクニック。
途中何度も寝てしまいそうになる。診察台のような、食卓のような、あるいはベッドのようなテーブルに乗せられて、とにかく横になって体をほぐしてもらっているのでマッサージのような気分になってしまう。これで寝るなという方が無理のような気もする。
途中で何度も”足の裏も揉んでくれないかな”と思う。

日本大使館でPさんとイギリス人担当者のSimonと3人で、3月25日用のパンフレットの打ち合わせ。各々の意見を言い合い、程よくまとまったのではなかろうか。
Pさんも一所懸命に考えてくれるので有り難い。
他にも英詩のコピーやら、R.A.D.A.の地図のスキャンやらを家で出来ないことを色々お願いする。助かります!

英国国際教育研究所という長い名前の学校の図師校長先生さんを訪ねて学校へ行く。
知人の紹介で知り合えた図師先生にも、「接見」や落語のワークショップでお世話になる予定だ。Jubilee LineのGreen Wichで降り、さらにタクシーで10分ほど。初めて行くロンドン南東部の辺り。
市内にあるような校舎を想像していたら大違い。”何とか王”の”息子”だかなんだかの教育施設だったというお城のような建物。スゲー!築400年だそうである。石造りの外壁の中は、廊下や階段がきしむ音がする木造の古い建物。それにしてもどの部屋も広いし豪華だ。特に天井の飾りつけは圧巻だった。こんな史跡級の建物を学校としてそのまま利用してしまおうとい考えは、維持費捻出という現実問題もあるだろうが、”古い物を大事に活用する”この国ならではのものだろう。

さて挨拶もそこそこに、いきなりシャンパンの栓が開いた。先客がお2人いて、4人でそのまま宴会になだれこんだ。別室には美味しそうなイギリス風の酒の肴がたっぷりあって、ワインもどんどん頂く。
こうなると私は止まらない。他の皆さんも同意見だったようで、勢いに乗ってPicadilly Circusの韓国料理屋で焼肉を食べる。美味い!久々の焼肉だー!もちろんロンドンでは初めて。ここには真露もあったので美味しく頂く。

夢見心地の、ほろ酔いで帰宅。お世話になりっ放しの1日だった。



2月21日(土)とにかく寒い!風邪ひくかと思ったほど。

英国在住のYさんのアンティークショップを訪ねる。場所はBond Street。Under groundの駅を出て左折すると素敵なショッピング通りがある。天気の良い日は、さぞ楽しいウィンドウショッピングが出来るのだろう。ところが今日は実に寒くて、それどころではない。ロンドンに来てから1番の寒さであろう。
Yさんは俳優の小野武彦さんに紹介して頂いた女性。小野さんが去年「接見」を見に来てくれた折に、ご親切にも”英国在住が長くて面倒見の良い方だ”とメールアドレスを紹介してもらったのだ。
お会いして早速にも率直に私の希望を伝えると、Yさんが来週には各方面に連絡を取ってくれることになった。てきぱきとした印象の方だ。こちらの態度も落ち度のないようにしなければ。

さて、Yさんのお店は1階に貴金属のアンティークがあり、その地下にある可愛らしい場所。丁度、日本帰国間際の駐在員の方が訪ねてきたので、その人たちを交えてしばしアンティークのお勉強をさせてもらった。
明治時代に「ノリタケ」という窯元の陶磁器の輸出が盛んに行われたことを知る。名古屋で大きな看板をよく見かける「ノリタケ」とは”とんねるず”のことではなく、この名前だったのだ。成る程!







Leicester Squareで「Blood Brothers」のマチネのチケットを購入。
マチネは4時だったので、時間が余ってしまう。
Actors Centreのそばのよく行く店で、お安いEnglish Braekfastとチキンスープを腹に入れる。このスープが味噌汁みたいな味だった。チキンはよく煮込むと味噌汁になるのか?
さらに、Actors Centreで60Pのお茶を飲みながら、テネシー・ウィリアムズの「欲望という名の電車」を英語で読む。そして「接見」の英語台詞も覚える

日本では柴田恭平が演じたことのある「Blood Brothers」は典型的な泣かせるお芝居だった。何しろ芝居の冒頭に結末の悲劇を紹介するところから始まるのである。
経済的な理由で生き別れになった双子が成長して再会し、付かず離れずで大人になり、「明日に向かって撃て」のような恋の三角関係があり、やはり経済的な理由が元で2人は死んでしまうというのが大雑把なストーリー。
はっきり言って、こういう手法は好きではない。
役者さんは、子供時代から大人まで伸び伸びと演じていたのではなかろうか。
双子の母親が歌う、それがテーマソングらしい”Just like Mariline Monlow”という曲が良かった


今日はこれでもかとライブのはしご。地元Camden Townのコメディクラブへ楠原さんと行く。ここはコメディクラブの老舗チェーン店だ。きちんとした食事も出来るので、ショウの始まる前から場内は超満員。特に若い女性客が多い。
ステージが始まると案の定、場内は爆笑の渦。ゲイとアイリッシュの2人が特に受けていた。腕もありそうだし、舞台度胸も良いのは分かるのだが、肝心の英語のギャグが私にはまだ分からない。今回の旅でスタンダップコメディを理解するのは無理だろうかなと、少しこの手のショウに飽きてきたのも含めて思い始めた。


2月22日(日)
朝食にオムレツを作るつもりで卵を割ってフライパンに入れたら、あれよと言う間にスクランブルエッグになる。

日本人向けの新しい放送局”J RADIO”に出演のため駅に向かう。するとどうであろう、ゲッ!Camden Townの駅が閉まっている!シマッタ!今日は日曜日だった!
急遽バスを乗り継ぎKing Cross駅へ。前にも同じことをやらかしたのに・・・
地下鉄でVictoriaに着き、そこから初めて国鉄に乗る。
EUSTONと同じ。空港みたいな発着表示板。列の並び方もチケット販売所の在り方も地下鉄と全然違う。分かんねえ!この日記のタイトルよろしく”右往左往”して電車に乗り、恐らく南へ一つ目の駅Battersea Parkに到着。徒歩で小さなラジオ局まで向かう。

それでもラジオは盛り上げましたよ。基本的には生放送で時々録音インタビューなどが入る構成。録音以外のフリートークの時は石井社長張りに喋り倒しました。文化庁文化交流使のことはもちろん、英語落語「A FIRE IN THE STABLE(厩火事)」も披露。小さい本当に小さいスタジオは熱気でむんむん!わざわざ椅子に正座して熱演したんだから。
”3月28日と帰国前にも無料出演しますよ”とほとんど強引に再度出演をねじこんできました。いいでしょ、何しろノーギャラで奉仕してるんだし、若いパーソナリティの彼女らよりは笑える番組に出来るんじゃないかな?!

夕飯に食べた鯖の燻製美味し!スーパーTESCOのヒット作!
今日の夜中になって、やっと1月の日記を脱稿。


2月23日(月)今日は朝から久しぶりに良い天気
今日もオムレツに挑戦。まずは卵をボウルに入れてかき混ぜるところから始める。そうなのだ、昨日はいきなりフライパンに卵を放り込んだから失敗したのだ。細かく刻んだ玉ねぎとマッシュルームとハムも後から入れる。形は悪いがお味は70点くらいの生まれて初めてのオムレツが出来た。ハハハ。
オムレツをおかずに小澤征治の指揮するクラッシックを聞きながら優雅に朝食。

風間杜夫さんの受賞パーティーに祝電を打つ。昨年度の芸術祭演劇部門大賞と読売演劇賞優秀男優賞のダブル受賞だ。すごいねえ。受賞対象作品は我らが水谷龍二さんの作・演出による風間杜夫一人芝居3部作である。もちろん私も見ましたが、3本連続上演という快挙だった。

ここでアレクサンダーテクニックの先生JHON GRAYから”どうして来ないのか”と電話がある。シマッタ!約束の時間を間違えていた!
あわててEarls Courtの先生の家まで行く。平謝り!

Actors Centreで3月の授業の予約。幾つか候補を挙げて申し込むが、見学だけになるのもあるだろう。2年ぶりのGlen Walfordさんとの再会になる彼女の授業が楽しみである。彼女には10数年前に日本で平幹次郎さん主演の「ヴェニスの商人」を演出してもらった。私の役はシャイロックの召使い、ラーンスロット・ゴボー。もちろん道化です。元々は小さな役だが、その時の演出ではとても目立ついい役にしてもらった。その代わり稽古場では演出の実験台のようになって、誰よりも色んなことをやらされてブーたれてたけど。お陰で今があるのだ。今回のロンドンの俳優学校の受け入れ先は、2校ともGlenの推薦である。彼女の短い手紙で見ず知らずの私を1発で受け入れてくれた。

Leicester SquareのODEONの大スクリーンで「LAST SAMURAI」を観る。なかなか面白い。「LOST IN TRANSLATON」の逆で日本を美化し過ぎかもしれないが。日本人として腹は立たない。映画監督の原田将人、今回抜擢された京都撮影所の切られ役専門の人など日本人のキャスティングは面白い。知ってる人も何人か出ていた。この間ロンドンでお酒を飲んだ伊川とうごさんも良い役で出ていてビックリ。渡辺謙はこういう役は大得意であろう。
ちなみにこちらの映画の始まる時間は映画の前のCMが日本より長いので、情報誌で調べた開始時間より遅れても間に合うことが多い。

Camden Townの”わがまま”でラーメンを食べる。有名な店だそうだ。経営者が日本人から代替わりして、最初の日本風の味からイギリス流に変化しているとのこと。確かに今まで食べたことのない味。薄口のとんこつ味に、ヘルシーそうな具をたくさん乗っけてある。ま、悪くはない。ただし一杯£6ぐらい。つま¥1,200もするけど。

ぶらぶら歩いている時に、角のパブで劇場を発見。パブのメニューだと思って見ていた看板には芝居の案内が書いてあった。2階が劇場らしい。今はイヨネスコの「授業」をやっていることも分かる。「授業」なら内容はよく知っている。灯台下暗しで芝居小屋を発見したのだから近日中に是非来よう。

実は昼間に電球が切れて困っていたが、あっさり大家さんが直てくれた。スタンドの傘が小さくて手が入らなかったのだ。それに電球のねじ込み方が日本と違う。昼間私があんなに苦労したのに、奥さんは魔法のように片付けてくれた。
こんなことにつけ、ロンドンでは部屋の中で困ったことがあれば大家さんに相談した方がいいらしい。”そんなことまで”というよなことまで、向こうの責任で処理してくれることが多いそうだ。

CD−Rを片っ端からチェックして、ようやくホームページの日記に写真をつける。


2月24日(火)
朝飯を作ろうとキッチンに行きリビングのカーテンをを開けると、ゲッ!雪が降ってる。
しょうゆ味の超簡単パスタで朝飯。そして雪を見ながら暖かいお部屋の中でパソコンと対峙。書いても書いても書き切れない、延々続く日記地獄。この努力を無駄にしないためにも、こりゃ絶対日本で出版してやるぞ!

午後4時半JAPAN21まで、昨日お願いしておいたR.A.D.A.「接見」の私家版チラシをもらいに行く。一緒に相談しながら修正しようかと思っていたら、もう写真入の立派なデザインが出来上がっていた。毎日色んな方のお世話になってばかりいる。
ありがとう、ロンドン!
POST OFFICEでそのチラシをコピー。そうそうこちらではコピーマシーンはスーパーやコンビニにはなくてPOST OFFICE(郵便局)にあるんです。あと図書館にもあるそうです。

楠原さん宅で夕食。昨日からきょう子さんが一時帰国していて今日は楠原さんがご飯当番だそうである。”得意の日本風のカレーを作るから食べにおいでよ”と誘われて性懲りもなく、図々しくご馳走になりに来てしまいました。楠原さん宅でも”こくまろ”辛口だった。玉ねぎを細く切りすぎてるから甘みがたっぷり出ていてちっとも辛口じゃなかったが、食べたくて食べたくて仕方なかった日本式カレーは美味しかったー!
それはそうと、きょう子さんは明日またイタリアに旅立つそうで、普段は丸顔の彼女が少し神経が尖った顔つきになっていた。

Camden Townに素直に戻って、昨日発見しておいたパブの2階の劇場に直行。
古くはジャンジャン10時劇場の中村伸郎、最近では柄本明さんの快演が記憶に新しいイヨネスコの「授業」を見に行く。
チケットを買おうとしたら劇場入り口で関係者らしき人たちに渋い顔をされた。地下鉄の影響で中止だという。そういえばさっき駅員が今日は入り口を早く閉めるとか何とか説明していた。
先月のCanal Cafeでも思ったが、この辺は劇場関係者に根性がない。”そのくらいの理由で大事な舞台をやめるのか。日本だったら絶対にやっている。現に私というお客が来ているじゃないか”と、文句を言う代わりに咄嗟に思いついたのが劇場内を見せてもらうことだった。お願いしたら快く迎え入れてくれた。
場内総黒塗りの小さな劇場。狭い楽屋も見せてもらう。初演、再演と「接見」をやった”中野スタジオあくとれ”や”下北沢OFF・OFFシアター”を思わせる。小劇場は日本と似ているのか?
主演の老教授をやるらしいのは若い俳優だ。この芝居が日本でも有名なこと、私は何度かこの芝居を見ていること、そして私は日本の喜劇俳優であることなどを説明したりして短い演劇談義に花が咲く。
帰り際に”そうそう”と思いつく。今日作ったばかりのR.A.D.A.「接見」のチラシを配った。R.A.D.A.という文字に一瞬彼らの小さなどよめきがあった。やはりこの王立演劇アカデミーにはそれなりの威力があるのだ。
週末に再度見に来ることを言い残して去る。私の背中の向こうで「あなたが見に来てくれたら、僕らも見に行くよ」と声が聞こえた。これは週末絶対にこなくては!芝居は見られなかったが、思いがけずイギリスの小劇場俳優と話が出来てよかった。ま、イギリスでこれまで見てきた私の勘では、彼らはよくてセミプロだと思うけど・・・


2月25日(水)
良い天気。日の光をガラスを通した部屋の中は暖かい。だが、外はそうはいかなかった。寒い。やはりまだ冬だ。

午前9時頃、まだ寝ているところに電話。大家さんだ。「今からあなたの荷物を取りに行きましょう」という。これは無理にでも起きないと。前日に嫁さん送ってくれた荷物が、この家には誰も不在だったために運送会社に送り返されてしまったのだ。その通知を持って、大家さんと日本から届いた荷物を取りに行く。大家さんの飼っている犬も2匹同行だ。この家には犬2匹、猫2匹のペットがいる。
倉庫で私の荷物を捜すのに係りの老人が手間取る。大家さんの話によれば、度重なるリストラのため多くの会社が機能を低下させてしまったという。この国でも同じような悩みを抱えているのだ。ただこの国では日本より早く、サッチャーのような人が登場したのだ。それが良いかどうかは別として。
とにかく無事荷物を確保、帰宅。

今日は日本の代表的なインスタントラーメン”サッポロ一番”しょうゆ味を朝食にしてみる。冷蔵庫にあった肉やら野菜やら卵をたっぷり使った具沢山の、贅沢インスタントラーメンにした。
受験時代に、母が作ってくれた夜食のラーメンの味に似ていた。30年以上も昔の味を舌と鼻が覚えていた。3秒くらい感傷的になる

"I didn't go to the moon, I went much further-for time is the logest distance between two places-" ”私は月には行きませんでした。もっと遠い所にいったんです。時ほど遠く隔たるものはありません”
・・・テネシー・ウィリアムズ「ガラスの動物園」より・・・

さあて荷解き。足りなかったものがたくさん詰まっていた。靴、浴衣、本、服・・・。揃えてくれた嫁さんに感謝

午後から、Actors Centreのレッスン。
先週見た芝居の話題から始まる。私はパトリシア先生に薦められた「Blood Brothers」野感想を正直に言う。他のみんなはそんなに芝居を見ていないようだ。まあ、私は日本にいても相当本数の芝居を観てるからねえ。
先週から引き続きの体を感じる体験。私も今日は空中浮遊を体験した。みんなに持ち上げられる時よりも、降ろされる時の方が重力を感じないのは何故だろう?降りている時の方が飛んでいる気分だった。
今度は全員で頭をくっ付けあって寝転ぶ。つまり頭を中心にした花の形のような円になった。そのまま低音から高温まで、お互いの頭を通して音の共鳴を感じる。

先週のブラジルエチュードからのモノローグを作ってくるのが宿題だったが忘れていた。咄嗟に沖縄出身のブラジル3世の少年の話を作ったが、付け焼刃では小学生の作文のようなものしか出来なかった。パトリシアにも”これもあなたの英語の勉強ね”と子供を諭すように言われた。他の生徒が自作のモノローグを暗記してきて堂々と発表しているのが悔しかった。

次は詩の朗読。こういうモノローグ的なレッスンが、この国には多いらしいことが後になって段々分かってくる。どうやらオーディションとも関係あるようだ。
もちろんこれは私も準備してきた。先週のうちに川端くんが、手頃な作品を日本からメールで送ってきてくれたのだ。川端くんとは私の大学時代の同級生で、我がクラスでただ一人だけ英文学の教授になった男だ。「接見」の英訳も彼と彼の教え子の福西さんという女史教授がいなかったら出来なかった。
とにかくこういう皆さんの助力のお陰で、今私はここにいる。
川端くんに送ってもらった詩は、全てが会話のような対句になっている旅人の話だ。1度目の朗読は早口でみんなに分からなかったようだ。2度目にゆっくり読むと”誰かと一緒に演じたらいいわ”とビッキーが言った。トレイと一緒に旅をする主人と従者という設定で即興的に始める。もちろん私は従者。ちょこまかと動きながら質問する私に、トレイが諭すように答える。ドンキホーテとサンチョパンサみたいなもんだろうか。
”とてもナチュラルでいいわ”と言い出しっぺのビッキーに褒められた。

当のビッキーだが、自分の番になると急にナーバスになった。読み始めるのをためらっている。私は初めて躊躇するイギリス演劇人を見た。こんなことが意外だった。
思い切って始めた彼女の詩の内容は、残念ながら私にはさっぱり分からなかった。

のっぽのジョンが読んだ詩は、どうやらイタリア人の旅行者の話のようだった。普通の英語でも分からないのに、詩なんてとても手に負えない。なんだか酔っ払いが出て来て、池に落っこちたとかも言っている。入り口と出口が30%くらい分かっただけだった。
ところがこれもまた即興で演じることになった。私は見学者のつもりで安心していたら、その酔っ払いをやれとパトリシアに言われる。
困惑顔の私にみんなが説明してくれたところによると、男女のイタリア人カップルが酔っ払いに写真を撮ってくれと頼む。だが彼は要領を得ない。挙句に酔っ払いはカメラを持ったまま池に落ちる話らしい。一体どんな詩だ、こりゃ。
しかしここは躊躇せず参加する。自前のカメラも提供した。私が日本人のイメージ通りカメラを持っているのでちょっと歓声が上がる。
ジョンが詩を読み始めたので、当てぶりのような心境で演技を始めた。やり始めてみると酔っ払いは言葉の壁を越え易いことに気づいた。何しろ元々頓珍漢な理解でいいのである。カメラが自前なので気を使わなくていいのも手伝って、羽が生えたように自由になった。勝手にシャッターを押したり、ズームにしたりと遊んでみた。見ている女の子たちが笑っている。ヨーシ、受けた。喜劇人として笑いを取った。
調子に乗っていたら”もっとジョンの朗読を聞いて”と注意されてしまった。そりゃそうだわな。俺のお遊びじゃなくて、ジョンの詩が肝心なのである。
でも私はこれは大満足だった。演技に参加している実感があった。こういう時は”役者やってて、生きてて良かったあ”と素直に喜べる瞬間だ。
良い気分で2週目の授業が終わる。

これでもまだ1日は終わらない。
夜は、楠原さんが情報誌METROから見つけてくれたミュージカルを観に行く。場所はJubilee LineのKilburnにあるTRICYCLE THATRE。野心的なプロデューサーが運営していると聞いた。結果的にこのミュージカルがすごく面白かった。WEST ENDのすでに出来上がってしまったものよりも熱気があった。”世の中に出て行くんだぞ”という迫力があった。
これは南アフリカ人が作ったミュージカルで「KAT & THE KINGS」。あるアカペラコーラスグループの顛末物語である。60年代のアパルトヘイトを背景にした厳しい視点はあるが、基本的には娯楽に徹した実に楽しいミュージカルだった。
物語はすでに老人になってしまった男の回想から始まる。彼の若い頃の役を演じるのがス主役のコーラスグループのリーダー。そこに集まってくる男3人、女性1人の計6人しか登場人物はいない。しかしエネルギーはその5倍くらいあった。
とにかくみんなサービス精神が旺盛で魅せることに力を惜しまない。演出アイディア的にも面白い。まず随所にマジックネタがふんだんに盛り込まれている。踊りも色々凝っていた。骸骨の気ぐるみを被り、さらに前後に2つの骸骨の人形を棒で繋げて、つまり1人で3人分の踊りをブラックライトの照明で踊ったりするのだ。
カーテンコールもこれでもかとアピールしてくるし、特にそれまであまり踊らなかった老人役の役者がカーテンコールで俄然張り切ってムーンウォークをやったりと、まさにあんこの詰まった鯛焼き状態だった。
その上に驚くのはそれだけ体力を使って疲れ切っている筈なのに、終演後はロビーに全員出て来て上機嫌で客に挨拶してくれるのだ。これはエライとしか言い様がない。私が日本人だとわかるとすかさず”ありがとう”と日本語で返してくれる気の配り方。ここは思わずCDも買ってしまった。

ついでに言うが、劇場もなかなか良い感じだった。実はここは元々教会だったらしい。それを新しく建て替えたので外観はモダンだ。ところが劇場の中に入ると手作り感がいっぱいだった。まるでテント芝居の客席のように組まれた客席には小さいながらも天井桟敷もある。人の温もりのある劇場だ。
今日はとても得した気分の1日だった。

帰りに客の少ない薄暗いパブで、僕らだけ芝居の話で盛り上がってビールを1杯やる。役者冥利に尽きる日の酒だった。



2月26日(木)天気は良いのだが寒いよー!
午前11時半からアレクサンダーテクニック。個人レッスンなので男2人だけ。狭い部屋に2人だけだと思うと少々変な気もする。
今日は体を外に伸ばすこと。腕も肩も腰も足も、内側に締め付けるのではなく外側に広げるのだと絵まで描いてもらって説明された。

午後はActors Centreに行ってBasic Acting。
まずは昨日もやった頭をつけてやる音の共鳴など。

そして、いよいよSCENEのレッスンだ。
私は自分で選んだ「欲望という名の電車」の1場面を演じた。1週間前から英語の台本を買って読んでいた。だが頑張ったのに半分までしか読みこなせなかった。
実は私の大学の卒業論文はテネシイー・ウィリアムズなのだ。だから「欲望」か「ガラスの動物園」なら何とか分かると思って選ん戯曲だ。確かに芝居も何度も観ているし、ついこの間は篠井英介さんのブランチも見た。大体内容は分かっているが半分までくるのが精一杯だった。それでもどこの場面をやりたいかは掴むことが出来た。

私は日本では絶対に出来ない役なのでスタンレーをやった。映画では若かりし日のマーロン・ブランドが演じた野生の男の代表のような役だ。どうせレッスンだし、イギリスまで来たなら恥をかかないとね。
先生はミッチとブランチの場面を選ぼうとしたが、私が拒否した。
選んだのはブランチとの最初の出会いの場面。相手は女性歌手のビッキー。彼女はこの超有名な芝居を知らなかった。
まず読み合わせから始まった。何度か読んでいるうちに、この芝居を知らない彼女に”もっと会話らしくしましょ(Conversationaly)”と言われて少々ムッとした。だが冷静に判断すると私も色々身構えてしまっていたことに気づかされた。ここは彼女の意見に納得。

いよいよ立ち稽古。
暑い夏のニューオリンズの芝居が開始された。演技の前にどうしても私の英語がたどたどしいのに腹が立つ。不自由なだけに相手の台詞の待ち芝居が多くなってしまう。
短い場面なので初回はすぐに終了。パトリシア先生が”良かった”と盛んにビッキーを褒めている。なんか”ブランチの不安がよく出ているわ”とかなんとか言われていた。次に私の演技に話が及んだ。”暑い日だから汗を拭いたりして、じゃもう1回”おい俺の話はそれで終わりかよ。と心で思って、顔は元気よく2回目を始めた。今度はシャツを本当に脱いでハンカチで汗を拭いてと試してみた。しかし急にそんなに上手くいくもんじゃない。そんな不満も満足のうちの気分で試技は終わった。

次にヘレンとジュリアンが2人で始めたのは「おかしな2人」だった。途中の台詞の”これはスパゲッティじゃない、ラングウィニーだ”に聞き覚えがあったので分かった。
それが分かってみると演技の状態がよく見えた。正直言って上手とは言えなかった。まだ素人臭いというか、そこに存在していないのだ。現在の私がそんな偉そうなこと言える立場じゃないが。
トレイとジョンはパトリシアに渡されたばかりの台本で、まだほとんど内容を理解していない風だった。
この日の授業はここで終わった。
”来週はさらにシーンの続きとモノローグです。何か選んできてください”と宿題が出る。

早速学校の近所の本屋で「The Marchant of Venice」を買う。
これは私が1度だけシェイクスピア作品に出たことのある芝居。平幹二郎さんのシャイロックの召使ラーンスロットゴボーの役を演じた。この役には冒頭1ページ半の長台詞がある。他に選びようもなく、迷うことなくそれに決めて本屋に直行したのだ。

その足で買い物に歩く。”ありがとう”までカツオ風味の”本出し”を買いに行った。でもそれだけのつもりが、イタリア産の日本米やら即席ラーメン、今夜の酒のつまみにと餃子に焼き鳥までどんどん買ってしまう。眼が日本食品を欲しがってしまうのだ。これでもコロッケと寿司は諦めたのだ。

ここで一問題あり。店でクレジットカードが使えなかった。その前の本屋では使えたから大丈夫だろうと思っていたらキャッシュコーナーでも拒否された。急に不安になる。現金がほとんどなくなり、すごすごと退散。帰路につかざるを得なくなる。
この問題は明日には何とかしなくては。銀行でも暗証番号を3回間違えるとカードが使えなくなるし、どうしよう。こんな時に海外は不安だ。

そして餃子で夕飯。イタリア産の米で炊いたご飯は楠原さんの言葉どおりに美味かった。これが今までで一番日本の米に近い。ただ今日は少し硬かったのは米のせいだろうか?水にさらす時間があまりに足りなかったためだろうか?おそらく後者だ。つまり私の不注意のせいだ。

タイのSonthaya君らにやっとメールを送る。滞在始めに通った英会話学校の仲間だ。


2月27日(金)
日本のカードの相談センターに電話したら、クレジットカードはどうやら大丈夫そう。昨日はどうなることやらと思って不安だった。やれやれ。

今日もJOHN GRAYの家でアレクサンダーテクニック。今日も睡魔との闘い。寝てる姿勢で指導を受けていると、どうしても眠くなる。
今日は起き上がり方を習う。鏡を背にして背中を伸ばして前面くっつける。背骨を伸ばすということだろう。背面、どうやら背筋が大事ということも言っていた・・と思う。

Camden Townに戻って買い物。そしてJAPAN21で作ってもらった4月2日の「JAIL TALK」のチラシのコピー。

今日はCamden TownのODEONでトニー・レオンの映画「INFERNAL AFFAIR 15」を観る。これはかなり面白い。主役2人と刑事やヤクザのボスの緊迫した演技が良い。撮影も演技もナチュラル。アクションは少ないのに迫力を感じた。香港映画も変わってきているのだということを実感。
映画を見始めたときに中国語の台詞(Line)に英語の字幕(Subtitle)が出ていたので、”やばいこれは理解できるかな?”と思っていたが、却って英語の速読の練習にもなり意味も大半分かった。これって英語が進歩してるってことなのかなあ?
ここは映画館が4軒も入っているので便利だ。日本で言うと・・・えーと、何でしたっけ?・・・とにかく複合型映画館である。

帰宅後、電話で3月1日のEton Collegeの打ち合わせなど。

読売新聞3月の原稿書き始める。今回は落語のワークショップや俳優学校の体験談が中心になりそうだ。


2月28日(土)
昼12時、Central LineのQweeswayでFIP(FUJI INTERNATIONAL PRODUCTIONS)、簡単に言えばフジTVロンドン支局の守谷さんと会食。
待ち合わせの場所には先に京都の劇団MONOの作・演出家の土田英夫くんが来ていた。彼とは別のパーティーで面識があった。彼が文化庁芸術家在外研修員派遣制度でロンドンに来ていることも知っていた。私の立場とは似ているようでちょっと違う。要するに彼は純粋に演劇留学に来ていて、私は日本文化を広めるために英国人と交流を図っている合間に演劇のお勉強もやっているよという具合である。どちらが演劇的に真面目なのかというと、それは本人次第である。とにかく是非とも一度ロンドンで会いたい人だった。
守谷さんが登場するまでに、私よりも4ヶ月も長くこちらに住んでいる彼に色々と逸話を聞く。どうも彼はこの町でしょっちゅうトラブルに巻き込まれているらしい。ドラッグをやっている連中の部屋にどういう訳だか放り込まれたり、家の近所でヤクの取引があったりと相当ドキドキする場面に遭遇しているそうだ。”大変なんですよ”と口では言いながら目が楽しそうだった。

守谷さんお薦めの中華”麺”に入る。メニューはその名の通り麺だらけ。具だくさんの卵焼き団子みたいなものが乗ったスープヌードルを食べる。今まで食べたことのないパリパリとした触感の麺と、これまたこんな味があったのかと感心するスープのラーメン。一口に中華といっても、この国では相当味に変化が富んでいる。長い歴史の中でイギリスに溶け込んできた結果なのだろう。つまりこれも異文化交流である。
一口頂いたあんかけ固焼きそばも美味かった。これははっきり日本人好み。ダックも美味い。その上すっかりご馳走になってしまった。言うことなし。
肝心の打ち合わせは、フジTVの深夜番組で4月2日のR.A.D.A.の「接見」英語公演を中心に5〜6分のドキュメント取材をさせてくれないかという話。くれないかも何も当然OKである。しかも公演本番のビデオ収録もしてくれるという。ありがた過ぎる。ロンドンに来て本当に横のつながりに感謝するばかりだ。
これで日本にいる人たちにも、滞在中の私の姿を少しでも分かってもらうことが出来る。
さらに3人でしばらくお茶を飲んで話す。こちらの航空運賃がいかに安いかとか、日本から持ってきた携帯電話がどうしようもないとか、色々と話は弾む。時に京都弁になったりする土田くんの話が面白い。ネタも良いが話し方も上手い。ベシャリのセンスがある。ロンドンに来て1ヶ月、久しぶりに日本人好みのジョークの上手い人に出会った。またそういう人は面白い場面に出くわすように出来ているのだ。
帰国した時のお土産話のために私も頑張ろう。それにはこういう人たちと話すのが一番だ。
2人が薦める通り、このQweenswayのお洒落な街並みには美味しそうな食べ物屋さんがひしめいていた。”来週この街でお酒でも飲みながら再会しましょう”と約束して別れた。今度はモロッコ料理を紹介してくれるらしい。楽しみだなー!

その足でLeicester SquareのARTS THEATREで、前からさいころが目印の派手なチラシと看板が気になっていた「The DICE HOUSE」を観る。ハーフプライスセンターにはすでにマチネのチケットがなかったので、直接劇場に行った。豪華な大劇場というわけではないのに£29.50。やはり高い。ちょっと躊躇していたら受付のお兄ちゃんが”さいころを転がしてみないかい?出た目の値段でいいよ”とか言っている。身振りと金額とさいころの数字を指しているので間違いない。名前がDICE HOUSEなだけあって、面白い企画じゃないか。博打は全然苦手な私も心が動いた。さいころは6個。つまり最大は36、最低は6。£6で芝居が観られるかもしれない。よーしやってやろう。さいころをもらってよく振ってから転がした。6,4,5・・・ありゃー、でかい数字ばかりだ。結局合計は29。お兄ちゃんが”You save 5p.(50ペンス得したね)”と50p銀貨を見せてニヤッと笑った。本当にそうなのだろうか?

果たして「The dice house」の芝居内容は?
以下箇条書き
立ち芝居が多くて生活感がない。
つまり台詞だけで、動きが少ない。正面芝居風が多い。これがイギリス流なのか?
TVのSit. Com.を観ているみたいだった。
コスプレとか、バラシ風ネタとか、ギャグが浅い
生意気なことを書いているけど
相当注意して聞いた場面でも、30%くらいしか台詞は分からなかった
さいころに振り回される人たちの話
はっきり言って採点は50点くらい
昔の日本の映画館くらいのサイズの劇場。見易い。登場人物は8人くらい
一応ウェストエンドに位置づけされている劇場

FoppでSANTANAとMO TOWNヒット曲集のCDを買う。2枚で£4。これを安いと言わずして何を安いと言えるだろうか。
劇場の近所でCINEMA専門の店を見つけた。最新の「Lord of the Ring」なんかのフィギャーがあちこちに並んでいる。石井が見たらたまらんのじゃなかろうか? 本のコーナーを見ていたら、別な店で見つけたハロルド・ロイドの本が£10も安く売っている。これだ!すぐに買った。後2冊残っていたから後で買占めだ。

カレーを作る。ヱスビーの”こくまろ”だ。これ英語圏に輸出用の品だ。
にんじん、じゃが芋、玉ねぎのオーソドックスカレー
豚バラの代わりにポークスモークを入れたら、ちょっと塩辛くなってしまった。おそらくベーコン用の肉。だって他に丁度良い豚肉ないんだよね
でも美味い!美味いカレーはご飯が進む。
満腹で仮眠。

読売新聞の原稿と小田原広報誌の原稿を書き上げる。上書き保存をし忘れたりして、午前4時までかかってしまった。
それにしても夜中の12過ぎに、せっかく書いた原稿のファイルが吹っ飛んでしまうと一瞬目の前が暗くなる。


2月29日(日)閏年なので2月は今日まで
ジャミルとLeicester Squareで待ち合わせ。R.A.D.A.のActingの先生DEE CANNONの授業を中心に通訳のスケジュールとギャラの打ち合わせ。他のイギリス人同様に彼もお金のことははっきり言ってくるので正直に交渉。そして成立。

昨日行った映画専門店に行ったら私のことを覚えてくれていて、ハロルド・ロイドの本をさらに£5まけてくれた。つまり半額になった。日本のコメディアクターだと自己紹介したことと、さすがにそんな本を立て続けに買う人はなかなかいないのだろう。とにかく私は得した。残るは後1冊。次は幾らになっているだろう?ちなみに、新しく本を取り寄せてしまうと正規の値段でしか売れないと言っていた。
側にあったビリー・ワイルダーの写真集も「アパートの鍵貸します」のジャック・レモンとシャーリー・マックレーンの写真が気に入って買ってしまった。「アパートの鍵貸します」は私の大好きな映画だ。これは£9.99。ちなみに英語の本当のタイトルは「The Apartment」。

Camden Townで例のイヨネスコの「The lesson」(授業)を観る。
私の予想を裏切って、とても面白かった。この国に来て初めてナチュラルな演技を見た気がした。演出家や出演者にお礼と褒め言葉を言って去る。私が本当に改めて見に来たのを喜んでくれていたが、彼らは果たして私の芝居を見に来るだろうか?
それにしても客が入っていなかった。今日が3週間くらいの公演の楽日なのに5人くらいしかいなかった。これでどうやって採算が合うのだろう。国からの援助でもあるのだろうか?それとも彼らはお金持ちなのか?大体これしか観客動員できないのに、何故そんなに長くやったのだろう?得点が高かっただけに疑問も残る。
後でパンフレット(英語ではbrochure)を読んで分かったが、出演者の経歴のレベルは高い。House Maidをやった女優はN.Y.のActors Studioの出身者でもある。ますます何故そんな規模の芝居をやっているのか分からなくなる。

夕飯にカレーうどん。おそらく明日の朝食もカレー。一人で”こくまろ”5皿分は、なかなか食べ終えられるもんじゃないことを痛切に感じる。





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