2008年夏「釣りキチ三平」映画ロケ日誌








2008年「釣りキチ三平」ロケ日記

7月24日
朝の飛行機で羽田から秋田空港へ。さらに横手市まで車で1時間。宿泊ホテルに到着。身支度を整えて、釣りの練習に出かける。
しかし雨でロケ場所の役内川が増水。茶色に濁っている。仕方がなく、支流の川で、引き抜きの練習。元気な鮎には何匹か犠牲になってもらった。鮎たちのためにも、本番で成功させねば。
帰路ホームセンターに寄ってもらい、川に行くためのゴムサンダルと、ホテルの部屋で使うために簡易本棚を購入。

明日のロケが中止と発表される。
夕食兼飲み会は助監督やキャスト仲間、鮎釣り指導の鈴木さんらとご一緒する。
ご当地のおつまみ、えご海草(蒟蒻の歯応えのないような感じ)と、かすべ(エイの仲間の干物を煮戻したもの、これは私は苦手だった)。そして何といっても、横手焼きそば(炒めずに、汁に染みた状態の真っ直ぐなソース味の麺の上に目玉焼きが乗っているのが特徴)を頂く。
今回の私のの役どころは東京の鮎釣りチームのリーダー、名前は松山。仲間には、竹田役の志村さん、梅沢役の安井さん。3人合わせて松竹梅である。
この町は原作者の矢口孝雄さんの出身地である。町には三平のポスターがいたるところに貼ってある。釣り人出版社の代表でもある鈴木さんが、ご自身と矢口さんとの長年のエピソードを聞かしてくれた。


7月25日
朝集合で釣り練習も中止と発表。
支流も増水したらしい。
コンタクトを装着して、その慣れ具合の練習も兼ねて散歩する。今回は裸眼の小宮も登場します。ゆっくりと横手の街を2時間半かけて散歩。大通り、川沿い、横手城址、かまくら博物館。お陰で、この街の歴史や地理状況もかなり分かってきた。
創作料理の店で十割蕎麦のランチ。美味い!
お城までの道を聞いた叔母さんは、道を引き返して案内してくれるというが辞退した。裸眼の顔なのに私と分かったらしいのには驚いた。
街中の種苗店で、鉢植えのマリーゴールド(たったの100円)を買った。別売りの安い鉢を買おうと思ったら、売れ残りを無料で分けてくれた。買値が100円なのに、この町の人は何て親切なのだろう。花と人情で、10日間のホテル暮らしがすでに明るくなった気がする。

昼過ぎに聞いたラジオ英会話の受信が馬鹿に明瞭だ。
劇作家の鄭義信さんに、満鉄OB会の取材の件で長いメールを作成。
午後4時から、ホテルの小座敷でリハーサル。監督は滝田洋二郎さん。優しく接してくれるが、注文と指示は鋭い。
7階の展望風呂で汗を流し、明日に備える。横手駅も見下ろせるこのお風呂には、以後ずっと入りっぱなしだった。マッサージも割安で良い。この温泉設備の充実は、このロケでの憩いであった。

MaryGold

たった100円のメリーゴールド。2週間の間、ずっと部屋で咲いていてくれた。
後からホテルの部屋掃除の方が、水漏れしないように灰皿を敷いてくれたりもした。もちろん私も水漏れケアは万全だったんでだけど。気遣いが嬉しかった。
ちなみに宿泊は「横手PLAZA ANNEX」


7月26日
いよいよ撮影始まる。朝から快晴、クランクイン!
午前中は、ゴムホースを使って引き抜きの練習。三平役の須賀健太くんも、我らが東京フィッシングチームも段々上手くなってきた。それぞれ教わり方が違うので、格好に微妙な個性があるのが面白い。しかし、こんな青いゴムホースだけの練習で生きた魚に対応できるのだろうか?

午後から、ついに撮影開始。水量は意外に多い。スタッフの足元がふらつく中を、大きな映画用のカメラがゴムボートに乗って、まるで川越をする江戸時代のお大臣様のように中州へと運ばれていく。リハーサルがあると思ったら、監督からいきなり『本番!』の声が飛ぶ。驚きながら、おとり鮎を泳がせる。『最初の紹介カットだから、小宮さん、もう少し余裕で構えましょう』と、私には穏やかに指示されるが、スタッフにはしばしば監督の怒声が飛ぶ。“これが映画の現場だなあ!”と、身が引き締まる。
すぐに“引き抜き”場面の撮影。自分の取り込み易い場所を密かに探っておいて、いきなり本番でトライ。おとり鮎と、かかり鮎の2匹が何とかタモに収まった。絵的な問題で、テイク2。以後も鮎は次々とタモに収まってくれた。結局タモ入れ失敗のNGは僅かに1回だけ。いきなりのプレッシャーの中では、上々の出来だったと思う。地元の釣り指導の方と、鮎集め担当のスタッフからは褒められた。

台詞の場面は、川の瀬の音が大きくてお互いの言葉が届かず何度かNG。手元作業は、釣り指導の方の手助けで無事OK。
しかし川の中に浸かっている私達は涼しいですが、夏の炎天下のロケは暑い。釣りの上着のベストにしまっていた、コンタクト用の目薬がお湯のようになっていた。目薬の名前は「クール」なんだけど、眼に射すと温まった「おーいお茶」だった。
まだ日の高い、午後3時過ぎには撮影が終わった。緊張した。疲れた。ウェットスーツの中まで水が入ってきたので、パンツがびしょ濡れだった。

AyuFisherB

鮎釣り師たちの撮影現場。
矢口高雄さんの、かつてのホームグランドだった役内川。
映画の中では役瀬川になっています。



7月27日ロケ2日目
早朝は役内川で主役の三平のロケ。この川は原作者の矢口高雄さんゆかりの川だ。今撮影しているのは映画の導入部、三平と我々フィッシングチームとの勝負の場面。この川を題材にした矢口さんのエッセイと漫画が、この話の元になっている。

昼食後に我々チームの撮影。三平と私が一騎打ちする場面である。
「朝瀬、昼瀞、夕上り」という鮎釣りの鉄則で、私が川の深い流れの緩やかな瀞場を選び、おとり鮎を放すまで。
鮎釣りの手始めはハナカン通しに、逆バリを付ける動作。老眼にコンタクトなので手元の焦点が定まり難いが、何とかクリア。
さて私達の東京チームは、鮎釣りファッションも流行に乗っている。私の釣りのウエアーはDAIWAの最新モデル。他の2人もSHIMANOとがまかつの最新である。

午後になると雲行きが怪しくなる。快晴の撮影で始まったので、絵の繋がりのために太陽が雲に隠れると天気待ちになる。
空模様がさらに怪しくなり、午後4時前に早めに撤収となる。
スタッフの判断は正しくて、帰りの車では大雨に見舞われた。

AyuKomiyaA

これが私の雄姿。
DAIWAで決めました。
使っていた竿もDAIWA。この竿が相当な高級品だったので、扱いには注意した。


AyuTeam3

我らが鮎釣りチーム。
左が志村さん。SHIMANOで決めました。真ん中が安居さん。がまかつで揃えました。
釣り道具の大手3社に気を遣ってます(^0^)




YasuiA

安居さん着替えの図(^0^)
現場では着替え室などないので、ほおずきのような格好で着替えていました。
これに関しては、我々の評判が芳しくなく、以後はロケ車などで着替えていました。




7月28日曇り時々雨。今日はロケなし。
午前中は地元の大きな神社まで、スタッフと主要キャストも含めてお払いに出かける。昨晩、三平のお爺さん三平一平役の渡瀬恒彦さん、魚紳役の塚本高史さんを始めとして大勢のキャストが秋田入りしたのである。
小高い山の上の、空気も湿ったような林にある立派な神社だった。私の経験した範囲では、最も荘厳で大掛かりなお払いだった。やはり渓流でのロケというのは危険も大きいのできちんとしたのだろう。いつもの二礼二拝よりも、気持ちがこもった。

午後1時から宿泊ホテルの大広間で、本キャストで改めてリハーサル。やはり渡瀬さんが入ると緊張感が漂う。監督はいつものように優しくて厳しい。
私たち東京のフィッシングチームが、三平・一平の一行に”鮎釣り大会で、ズルをしたんじゃないか”と因縁をつける場面で、いつの間にか最初から悪役を気取った芝居になってしまっているのを『それだと芝居が単調になりますよ』と監督に指摘される。その通りだった。なるべく穏やかに声をかけるように修正した。
渓流という現場では全てに制約が多く手間がかかるため、こういうリハーサルは入念である。その代わり、現場ではぶっつけ本番も多い。これが今回の映画のやり方だ。

YokoteWelcome

駅前の歓迎看板。
この時期、町全体が応援ムードだった。


夜はスタッフ・キャストの親睦も兼ねて大広間で盛大な食事会。地元の町長さんや観光課の方たちも多い。みなさん地元出身、矢口高雄原作の映画化を応援してくれているのである。秋田だけに日本酒の鏡割りもあった。
主要キャストや監督・プロデューサーの挨拶もあり、ちょっとした記者発表の様子を呈した宴会になった。
しかもこの日は渡瀬さんの誕生日でもあった。ケーキや六十(?)本のバラの花束の贈呈、そして矢口高雄さん直筆の誕生祝の絵巻物までプレゼントがあった。あれは相当値打ちものだろうなあ(^0^)


7月29日(火)
朝5時過ぎに目が覚めると、昨晩からの雨が残っている。
降水確立は50%以上。絶対ロケ中止だと思いながらも、ホテル内に設置された衣装とメイクの準備室に行くとロケ敢行だという。

YokoteTaxiD

いつも送り迎えしてくれた佐藤さん。 佐藤さんは横手の人ではなくて、別のタクシー会社から派遣されてきたそうです。


行きの高速道路では雨が降ってきた。嫌な予感。しかしロケ場所は曇り空。ロケは予定通り始まった。
今日は、鮎釣り大会の表彰式の撮影。六十(?)才になられた、渡瀬さんのファーストカットである。
そして絶対に優勝だと思っていた私が、三平一平・三平の2人に負けて第3位になる。当然1位は天才釣り少年「釣りキチ三平」である。
本物の鮎釣り師のエキストラの方も多いので段取りなどに手間がかかる。鮎釣りは上手くても、撮影は慣れていない。時々携帯のカメラを私たちに向けて「撮っていいですか?」などと、お気楽気分の方もいるのも多少やむを得ない。

午後からは晴れ間も見えてきた。お払いのお陰だろうか。強運な組である。
三平の頭の上に乗っていたカエルが私の頭に飛びかかるカット。これが生き物相手だけになかなか上手くいかない。どこへ飛ぶか分からないカエルを、私の顔にくっつけなければならない。私の反射神経を試されているようで意外に緊張した。
かなりコミカルなアドリブを発したりしたが、後になって案外ノーリアクションも面白かったような気がして悩む。

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撮影中にすっと空を飛んでいた赤とんぼ。
長い物の先端には必ず止まる習癖があるので、9メートルという私の長い竿先にも撮影中にもしょっちゅう止まっていました。 時にはスタッフの頭にも(^0^)


このホテルは温泉が充実しているので嬉しい。しかし今日入った岩盤浴は、蒸し暑過ぎて私には向かなかった。結局いつもの展望風呂に改めて入って大満足。仕事の疲れと汗を流す。風呂上りのビールも美味いし、足ツボマッサージもなかなかだった。
展望ラウンジでライフセーバーの方達とダイビングの話で盛り上がった。

この頃、ホテルの部屋で重松清の「流星ワゴン」を読んでいた。
それと平行して読んでいたのが、秋田に来る前に発見した貴重な古書のコピー。父の戦前の仕事をモチーフにした、2008年の年末にやる一人芝居のために資料を探していたのだ。私は朝鮮鉄道に勤めていた方達の、終戦前後の回顧録を読む機会を得ることが出来た。何とその文章の中で、私は63年前の父と対面したのだ。
あ、もちろん「釣りキチ三平」の台本もチェックしていましたよ(^0^)


7月30日(水)
午前中は主に塚本高史さんが演じる魚紳の登場場面や、鮎釣り大会のエキストラの釣り人たちの撮影。実際に釣りをし始める人もいて、中には私達が見ている前であっという間に6匹も釣り上げた人もいた。鮎の友釣りにルアーがあるのも初めて知った。

午後からは、優勝を逃した我々東京フィッシングチームが、三平一行がインチキをしたのではと、橋の上で待ち伏せして因縁をふっかける場面。いわゆる芝居場である。
俳優部の専門分野であるからNGはほとんどなかったが、カメラと役者の細かい位置などで時間がかかる。
最終カットはクレーンを使った。巨体のカメラマンがクレーンの椅子の上に乗って橋の外まで飛び出しての撮影だ。カメラの下は柵も何もなし、岩の間を流れる川があるだけである。見ている私はドキドキしたが、カメラマンは平気である。カメラを覗くとカメラマンは恐怖心がなくなるらしいが、つくづくその勇気に感心する。
三平の幼馴染の女の子”ゆり”役の少女は、ほとんど演技が初体験らしい。こういう指導の時の監督はとても優しい。普通に優しい。
三平役の須賀健太くんは、普段からかなりなひょうきん者なので、じっとしていないし、いつも何か喋っている。時々渡瀬さんにも口答えしたりするので、こっちが驚いたりする。でもこれもご愛嬌だ。渡瀬さんも、大体ニコニコしている。たまに厳しい発言もありますが(^0^)

Sanpei1

三平役の須賀健太君。「Always 三丁目の夕日」や「花田少年史」などで有名な少年。


私は賞品としてもらった”秋田こまち”の米の2,5キロ袋と3位のトロフィーを抱えたまま芝居をした。監督の指示である。これは昨日の撮影で、誰からともなく咄嗟に出たアイディアだ。いやらしい絡み方をするシリアスな場面なのに、重たい米袋を抱いたまま演技しているミスマッチが、そこはかとないユーモアになっていれば嬉しい。私もなるべく芝居臭くないように演じたつもりであるが・・・上映を見てのお楽しみ。

帰り道で、地元の床屋さんで猫を数匹発見。思わず撮影。

Cat08Akita2

右側に床屋の看板が見えますか?
手前の2匹以外にも看板猫が数匹。
こちらの床屋は散髪用の椅子が1脚だけ。宮沢賢治の世界のような、まさに村の床屋さんだった。


Cat08Akita4

猫の家の横に4匹が集合。お昼ごはんを食べていたのかなあ?
みんな人見知りで、あまり近づけませんでした。




7月31日(木)
長期ロケのため、日にちや曜日の感覚がなくなってきたが、今日で7月も終わりなのである。

AkitaMountA

役内川のそばの山々の風景。
町は晴れていても、山に近い撮影現場は雲が多いことがほとんどだった。盆地のせいなのだろうか?


今日はいつもと違って大型の送迎バスで現場に到着したが、前のロケが遅れたために私達の撮影は全くなかった。
昼飯のカレーライスを食べて、山の野営地のようなテントでメイクと仕度をしただけで帰ってきた。
撮影本体は一平爺さんとゆりの釣りや役内川と山の風景の撮影。魚紳役の塚本さんと三平は、フライフィッシングのキャスティングの練習に出かけた。
私達の帰京が遅れることが必至になってきた。

プロ野球オールスター戦。楽天の山崎の決勝打でパリーグの勝ち。




8月1日(金)
8月に突入。ホテルの部屋から見る街は雨だったが、送迎バスは出発。そして現場は曇り空。何とか撮影可能。

一昨日の続き、三平一行と私達チームの対決場面。まずは一平によるルール説明から撮り始める。現場の川原までは、スタッフが切り開いた藪の中の道を歩いて、さらに梯子で降りる。切り株も多いので軽装備だと足の裏が痛い。
台詞のある場面はスムーズにいったが、おとり鮎をつかむ手元のアップなどで時間がかかった。これは結構難しいのである。本当の釣り場で鮎をつかむには、魚をおとなしくさせて水温で冷やした手でしっかり囲むのがこつであるが、監督やカメラマンの要求は反対にぴちぴちと活きの良い魚をカメラにきっちり見せてほしいということである。三平も苦労していた。私は1回目のOKテイクで魚の腹と背が逆だったのが納得できずに、無理を言って再トライさせてもらってOKにした。もし本当の釣り師が見ていたらと思うと、ここはこだわりたかった。

ゆりの合図一発で対決が始まり川へ入るカットは、釣りウェアが水に濡れないようにするために、ぶっつけ本番。私も川底の石に足を取られたりして覚束なかったが、梅沢役の安居くんは転んでしまった。
結局2テイクめでOK。

午後は、勝負後の結果発表場面。もちろん三平の圧勝。
最初悪びれていた私達も、三平の理に叶った作戦に驚きつつも感心せざるを得ない。勝ち誇る三平に言う一平の言葉
『釣りは数を競うものではない。川と戯れ魚に遊んでもらうものだ』
これがが、なかなか効いてくる。磯釣り師の私も確かにそう思う。
そして三平も私達も、お互いに敵対心を治めて、和やかに釣り師たちは握手をするのである。
これが、この映画の中では我々の登場場面のラストカット。
でも撮影は、まだまだ続きますが(^0^)

渡瀬さんは撮影の合間に長い竹竿を振り、和製のフライフィッシングである”天カラ”の練習に余念がなかった。ドラマの後半部では、幻の大魚を求めて三平と魚紳はフライフィッシングで、一平は天カラで魚を釣りまくるのである。和と洋の釣りの競演も面白い。

帰り際に明日からの天気が芳しくないようだと、チーフ助監督から言われる。さて、どうなることやら。


8月2日(土)曇り。
朝からロケ隊は出発。
現場も曇り。泣き出しそうな空ながら、天気は一日もってくれた。
午前中は魚紳を含めた広い引きの絵の撮影。この映画のポイントの一つは秋田の山や川の景色である。自然と戯れる日本人の原風景とも言える。そうなると、この鮎釣りの場面で欲しいのは、夏の青空と木々の深い緑、陽光にキラキラと光る水面が欠かせない。監督以下、スタッフも祈りを込めて太陽が顔を出すのを待つ。じっと待つ。私も川で待機。だが空は思うようにならず、明るい曇り空を狙って仮の撮影。監督はきっと別な日に再トライするだろうと、私は思う。この映画は、そんな気迫に押されている。

午後は我々”松竹梅”の撮影。
ここで私たち東京のフィッシングチームのメンバーを紹介しておく。まず私は筆頭各の松山役。鮎釣り大会では、いつも優勝するベテランだ。そして竹田役の志村東吾さん。2位常連で、松山には密かにライバル心を燃やしている。一番若い梅沢役は安居剣一郎さん。このチームでは新人である。安居さんは、ふりかけやお茶漬けのCMで顔は知られている。滝田監督とは所属事務所の社長さんを通じて酒席にも参加したことがあるらしい。そのせいか、現場でよく監督に喝を入れられているが、それも可愛がられている証拠だと私は思っている。本人は時々へこんでいるけど(^0^)

AyuTeam3

鮎チーム再び登場。


さて鮎の引き抜きだ。カメラ位置に合わせて引き抜くのは相当難しい。
特に泳いでいる鮎をカメラが水中で捉えた導線のままに引き抜くのは難しい。経験したことのある人にしか分からないかもしれないことを言うと、監督の「引いた」の掛声だけで引き抜く。助監督にハリスを押さえてもらったままから引き抜くのは難しい。自分のタイミングとポジションではないのだ。私もここ一番真剣になったが、テイク10まではかかってしまった。途中でフィルムチェンジもあり、スタッフが苛々しているのも伝わってくる。最終OKカットでは、台本本来通りの『やっと来たよ』の台詞に、違った意味でも実感がこもってしまった。
この対決場面は、私と三平を見ている竹田と梅沢の台詞と動きも面白い。


明日は撮休。天気予報も悪いが、ここまで頑張ってきたスタッフもそろそろ休んだ方がいいだろう。今日は川の中で転倒している人を何人か見かけた。みんな疲れているのだろう。私も油断していた帰り道に深場に足を取られてしまった。それでも胸に仕込んだピンマイクは大丈夫だった。水没させたら音声さんに申し訳ない。

夜はライフセーバーさんたちと食事会。明日はお休みなので、久しぶりにゆっくりと飲み、食べ、語らう。




8月3日(日)意外にも晴れ時々曇り。
午前中は快晴、撮影用語で”どピーカン”の時間帯もあった。惜しかった。
ロケの習慣で8時に起床。朝食会場に行くと須賀くんや助監督が川の奥地へ下見に行くという。滝田監督もすこぶる元気に現れた。皆さん早起きが、すでに習慣なのだろうか?

今日は有名な秋田の竿燈祭りでホテルが満室のために、プラザホテル本館まで部屋移動になった。
どうせ休みなのだからと、私は奥羽本線で秋田まで、その竿燈祭りの昼イベントを観に行くことにした。普通電車で約1時間半。『ワンマン』と表示された2両編成の電車は、ドアの開閉が自動ではなく、利用者の押しボタン式。出身地国府津を走る懐かしい御殿場線を思い出した。車内は4人掛け用のボックス席と、山手線のような長椅子の席の組み合わせ。トイレも車内にあるので、通勤と観光が混じった気分だ。運転席の方へ向けば、進行方向の景色が飛んでくる。お祭りへ出かけるらしいミニの浴衣姿の女の子もチラホラ。初めて乗る列車は楽しい。

OouTrain

奥羽本線の電車。 隣のホームの列車はディーゼルだった。


秋田駅前のアゴラ広場で、竿燈のデモンストレーションを見学。竹竿で組んだ帆柱のような仕掛けには何十もの提灯を吊るしてあり、いかにも重そうなそれを頭や肩でバランスを取る姿は格好良かったです。『どっこいしょ、どっこいしょ』の掛声が、さらに祭りの気分を盛り上げていました。秋田の夏は真っ盛りですね。
久保田城址のお堀などもチラッと見る。

AkitaFestival

写真のように提灯をたくさん付けた竹竿飾りを体の色んなところでバランスを取りながら乗せて歩くらしい。きっと夜になったら綺麗なんだろうなあ。


往復の電車で10日から舞台の稽古が始まる「偶然の音楽」の再読を開始。4年前に読んだ時よりも、スラスラと情景が浮かんで頭に入ってくる。すでに演じているからだろうか
大曲の付近で複線のもう片側を新幹線が走っているので、ちょっとビックリ。秋田新幹線は山形の「つばさ」のように一般線路を使っているのだ。




8月4日(月)
午前中は広い引きの絵の撮影が中心。主に上流の三平たちからの絵。たまには橋の上の魚紳役の塚本さんも写る。彼はまだ台詞を言う場面が少なくて、現場に来ても待ち時間が圧倒的に長い。ただしドラマの後半部になったら大活躍である。曇り空が多く、天気待ちの時間が多かったので数カットしか撮れなかった。皮肉なことには、撮影を中断した途端に太陽が顔を出して夏の青空になることもしばしば。

午後は天気も快晴になる。そうなると三平中心の撮影になった。それまで昼寝していた三平が起きだして、岩の上から鮎を立て続けに引き抜いていく場面。それもカビの生えたような古い竹の和竿で引き抜くのだ。

こうなると我々鮎チームは待ち時間が多くなる。密かに瀞場や瀬で友釣りを実際試してみたが、瀞場には魚の姿が無く、流れの速い瀬ではおとり鮎があっという間に流されて根掛かり頻繁で釣りにならなかった。悔しいなあ。
渡瀬さんが釣り指導の鈴木さんからフライフィッシングのキャスティングを教わっていた。私もやりたいなあと思っていたら、鈴木さんがロッドを貸してくれた。昔フライは習ったことがあり、一応道具も持っている。思い出しながら竿を振ると、曲りなりにラインが遠くへ出ていく。喜んで続けていたら、後から拍手された。見ると渡瀬さんだった。渡瀬さんに拍手されるとは思ってもいなかった。実はその前にも、密かに釣りをしていたのが渡瀬さんの演技の目線に丁度良かったらしくて『小宮、サンキュー』と、お礼を言われた。何度かお仕事をご一緒させてもらったことはあるが、こんな経験は初めてだったので妙に嬉しかった。

さて、和竿で次々と引き抜く少年に、最新流行鮎ファッションの我々はただ唖然とするばかりの絵を数カット足して、本日は撮影終了。時計はもうすぐ6時を指していた。これだけ空が明るい夕方は、秋田に来てから初めてであった。『まるで梅雨明けだな』と誰かが漏らした。
ということは鮎チームの場面は撮り残しがあるので、明日も残留が決定。こうして秋田泊12日目の日が暮れていった。


8月5日(火)
横手市は満天の青空の快晴。しかし役内川には雲もある。山の天気は分からないものだ。
午前中は岩の上から鮎を釣る三平のカットばかり。

そして午後から、いよいよ東京フィッシングチームの撮影。三平の腕前に唖然とする3人。監督の咄嗟のアイディアも冴える。アドリブも入って着々と進む。
遂にラストカット!
対決に負けそうな私が焦って川でこける場面。いや台本に、はっきりそう書いてあるわけではないが、私の希望で監督にお願いした。ここは衣装やマイクが濡れてしまうので、一発本番しかない。気合を入れていくぞと思ったら、厚い雲に覆われて日が翳ってしまった。ここで長い待ちになってしまう。
待ち時間に、私は川底の石や岩を確認する。リアルに転び易い場所を何度も点検。事前にスタントの方に見本を見せてもらった動作も確認。スタッフが険しい顔になってきた。私も”この1カットのために、延泊か?”と不安がよぎる。
そんな時に、照明チーフが『2キロ』用意しろと指示した。監督が『伝家の宝刀か』とつぶやいた。強力な照明で撮影敢行だろうか?
準備が整い、2つの大きなライトで川面が明るく照らされたところで、瞬間的に晴れ間が覗いた。監督から大きな声で『よーし本番行くぞ』の声。
私のアドレナリンが上がる。
『スタート』の声で芝居が始まった。失敗は許されない。私は大声で怒鳴った後に、段取りよろしく仰向けに川に倒れた。水中で無我夢中になりながら『竿!32万円の竿!』と、さっき思いついたアドリブを叫びながら竿をつかもうとするが、立ち上がれない。大分川下に流されて助けられた。思ったより時間が経っていた。
顔を上げると、スタッフの拍手が聞こえる。助監督から出番終了の花束を送られた。やっと終わったのだ。監督と元気に握手させてもらった。
全身ずぶ濡れになりながら、メイキングビデオ班のカメラにXサインを示した。
「釣りキチ三平」ロケ終了。ありがとうございました!

夜は今回の制作会社の一つ「白組」の方たちと、小さな打ち上げ。美味しいビールを頂いた。


SanpeiKomiya

撮影終了直後、ずぶ濡れの私と三平の2ショット。
シャッターを押してくれたのは、ゆりだった。





8月6日(水)
ロケ隊は7時45分出発。
私にロケはないのだが、習慣で7時前に起きて朝食会場の大広間へ。毎朝食べたシジミの味噌汁。ナスの漬物。日替わりの焼き魚、今日はほっけだった。
温泉に名残を惜しんで、大浴場へ。
部屋の片付け。 何でも始まれば終わる。昨日までは帰りたかったが、いざ帰るとなると懐かしい日々だった。これから役内川の水に浸かることなどあるのだろうか?
撮影隊は上流の滝まで出かけたそうだ。昨日までとは、ロケの厳しさが格段と違ってくるだろう。撮影の無事と成功を祈るばかりである。






ところで今回のロケの昼飯は凝っている。地元の方のご協力も得て、毎回野菜や果物豊富な手料理である。昨日は稲庭うどんとおいなりさん他のセット。今日は牛丼と野菜・地元の漬物。小茄子ときゅうりの漬物。そして差し入れの西瓜。
カレーライス。鮎の味噌田楽弁当。カツ丼か岩魚の蒲焼のチョイス。冷やし中華。豚キムチ丼か秋刀魚の蒲焼ライスのチョイス。ブドウ、プラム、パイナップル。













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